〔寄稿〕 映画「ミス・マルクス」

 フィナーレに近い場面で、パンクロックの音楽に合わせて身体的にも精神的にも大発散して踊るエリノア・マルクス。彼女が同居人との関係で生じるさまざまな抑圧をはねのけたくてもできないで追い詰められていく情景が描かれている。彼女は、自分のことは誰に相談することもなく最期を迎えるのである。
 映像の中に、19世紀後半のアメリカ・イギリスの産業資本主義下で働く悲惨な労働現場の写真の数々が紹介される。彼女は、現場を調査し、資本家・経営者に意見する。社会を見つめ、『資本論』に学びながら労働を考え、労働者や女性や児童のためにさまざまな問題を摘発していく。10代から父マルクスの秘書として働き、『資本論』の英語版の刊行を手がけたように「地獄で闘う父」の熱情を実現しようとしたのだ。
 労働者が闘う場面は工場を背に抗議する多くの労働者が決起している場面で、その労働者たちの中にエリノアが一人で入っていき、一人の男の子に導かれるように細く暗い路地を入ってたどり着いたところは、泣き叫ぶ乳児や幼児の声の中で腹部にけがを負った母親が横たわっている。彼女は母子が生死にのたうつ現実をなんとかしようと強く思ったに違いない。また、彼女は姉のジェイシーの息子を預かり、彼を気遣い、叔母として大事にかかわろうとしていたことが丁寧にえがかれている。女性ならではの優しさで愛しんでいる。
 エリノアは児童労働を禁止し、女性の社会的解放を強く主張したのである。
 私は、この映画は斬新的であるが、監督は多くの若い人々と論議し共同して制作したのだろうと思った。関東では数か所の小さな映画館で上映されている。この映画を周りの人や若い人々にも観てもらって、ぜひ感想を出し合って論議したいと願っている。
皆さんもぜひご覧ください。
 上映館をお知らせします。
 東京  シアター・イメージフォーラム (9/4~)
 神奈川 シネマ・ジャック&ベティ(近日) 

                  あつぎのえいがかんkiki (10/2~10/15)
 栃木  宇都宮ヒカリ座(10/29~11/11)

     小山シネマロブレ(11/26~12/9)


           (二木安奈)