NHKは、7月12日(日)の夜、視聴率が高い21時にNHKスペシャル「スパイ 機密と監視の境界で」を報道した。この番組の副題は「スパイはそこにいる 狙われる日本 元諜報員独白 監視の懸念」である。
このような報道をNHKはなぜ組んだのか。「国家情報会議」の事務局として「国家情報局」が7月に設置されることに呼応して、“外国人スパイ”への警戒を大々的にあおり、「スパイ防止」の一大キャンペーンをはじめたのだ。
「国家情報局」の必要性の刷り込み
NHKの番組制作の意図は明らかである。「国家情報局」が7月に設置されることに合わせて,“スパイとの闘い”の機運を盛り上げることにある。そのために、外国の諜報員によるスパイ活動•スパイ工作の実態とその捜査がどのようにおこなわれているのかを誇大に押し出すことから始める。
番組の冒頭、公安関係の元捜査員のなまなましい証言が流される。
立件された“スパイ工作”は、日常にありふれた状況の中で、私たちの身近なところで行われている。「日本国民」は大いに警戒し、国家として対処していくことが重要なのだと視聴者に刷り込んでいく。
スパイ工作を受けた「体験者」にはこう語らせる。4年前、あるシンポジウムに参加した後、外国人に話しかけられた。流ちょうな日本語を話す白人の黒いスーツ姿の男性で、「在日ロシア連邦大使館○○」の肩書を記した名刺を渡された。このことをその学生が教授に相談したことで「スパイ工作」であったことがわかったという。
このようにスパイ工作が始まっていく例を紹介して、人々の生活の中にスパイ工作者が忍び込んでいるから、近づいてくる相手に警戒心をもって接するように導く。
さらにたたみかけるように、捜査関係者への取材からえた証言として、ソフトバンク社員がロシア人からスパイ工作を受けて本人も検挙された事件にスポットをあてる。最初は、飲み屋街で「いいお店、知りませんか」と外国人に声をかけられて一緒に行動したことからコミュニケーションがはじまる。やがて、求めに応じて会社のホームページのコピーを手渡して5万円を受け取った。その後、相手は「あなたのマンションを知っている」などと脅迫口調になり、携帯電話の基地局などに関する企業秘密のデータを求めてきた。彼は、相手の指示に従ってパソコン画面にデータを表示しカメラで撮影してその画像を渡し、20万円を受け取った。このことが発覚し、本人自身が検挙され、不正競争防止法違反で有罪(懲役2年、執行猶予4年、罰金80万円)になったという。
この件について、取材に応じた捜査関係者はいう。「当時接触をくりかえすのを警察がつかんでいたのだが、日本では情報が漏れたと確認されるまで立件が難しかった。これまでは捜査に限界があったのだ」。しかし、これは明らかに捜査当局が泳がせて立件したことをあけすけに告白するものではないか。
そして、設置される「国家情報局」は、迅速に捜査し、このようなことが起きないように取り締まる組織だと、その意義をおしだしているのだ。

ロシア・中国を想定した「スパイ防止法」
次に、複数の元公安関係の捜査員からの情報として、公にされていない事案を“初めて”紹介するという。
その男の話は、「狙われるのは、民間企業の先端技術にとどまらない」「国の安全保障にかかわる重要な情報も狙われている」「国にとって困る情報がいっぱいあった。これは全部やられたなと思った」という述懐から始まる。
ある中国人の自宅を別件で捜査すると、パソコンのデータが消去されていた。不審に思った捜査員がその情報を復元すると、内閣府、防衛庁、海上保安庁などの国家諸機関や、防衛関連産業のなどのフォルダに多くの情報が発見されたというのだ。護衛艦に関するものや弾薬数など…。その中国人とは、省庁に布団のシーツを納入している業者だったという。省庁に出入りする関係者から仕様書などを入手して、中国の防衛関係の会社に送っていたことがわかったという。しかし、警察はこの事案を立件し公表しなかったという。どこまでどのようにされたのかがつかめなかったからだというのだ。
そして、次のシーンでは、中国の公安部門の元秘密警察員が、さまざまな情報をえるために、中国政府は他国にいる民間人から多くの情報を集めて集約し、分析しているのだ、と語る。NHKは、このことをわざわざネットワーク図を示して強調している。こういう中国の情報収集に対して、アメリカ・オーストラリア・カナダなど5か国が共同声明を発表して警戒を促しているという。
もう一つ特徴的なシーンは、ロシア対外情報庁が発表した動画の紹介である。欧州で拘束された諜報員の家族をプーチン大統領が直々に空港で出迎える場面である。「英雄的行為」として印象付けるためだ、という解説をつけて。
今回、NHKが取り上げたスパイ工作は、もっぱら中国とロシアのそれである。このように、NHKは、ロシアと中国による諜報活動に対する警戒を訴えているのである。
「国家情報局」は、情報管理体制の総仕上げ
首相・高市はいう。「我が国のインテリジェンスの基盤を整備する、そして、情報力を高めることによって直面する困難な課題に的確に対応する。国民の皆様の安全を守る、安心を守る、そして国益を守る」という。その最後には、かならず、“国民の安全・安心を守る”と。この高市の発言は、日本帝国主義権力者として、中国・ロシアの東側帝国主義諸国に対して、あくまで打ち勝ち、日本帝国主義の国益を貫徹することを宣言したものである。
それと同時に、このような対外政策に反対する労働者・学生などの闘いを徹底的に調査し弾圧する意図を示したのである。
この番組では、「国内テロ」を防止するための監視対象が膨大に挙げられていることの一端が報道された。その中でイスラム教徒72000人の情報が収集されていることを明らかにしている。その家族の一人ひとりの情報とともに、モスクの前に設置された監視カメラのデータ、「追い込み」(尾行)のデータも蓄積されているのだ。
これとは別に、岐阜で当局の監視活動を不当だと提訴した女性は、福島原発の事故の後、風力発電に関心を持ったこと、原発についてⅩにつぶやいたことなどが、強力な「反原発」の発信者になる危険性があるという理由で監視対象にされているという。
これらは、氷山の一角に過ぎない。
「国家情報会議」は“戦時国家体制づくり”
「国家情報会議」は、「警察庁や防衛庁や公安調査庁などの各省庁からの情報を一元化して分析にあたる総合調整権を持つ」とされている。各省庁はスパイへの対処に加え、テロなどを未然に防ぐために情報収集に当たる。政府は、今後いわゆる「スパイ防止関連法案」の策定に加え、海外で活動を行う「対外情報庁」の創設も検討しているという諜報活動をさらに強化するために取り組み続けるという。

NHKは、最後に「国家情報局」の捜査の弊害の可能性にふれている。
だが、それは、「国家情報局」を全面的に賛美し、“スパイとの闘い”を煽り立てるという犯罪的行為を隠蔽するためのペテンなのである。
NHKは、高市政権の戦時国家体制づくりの片棒を担いでいるのである。われわれは断じてこれを許してはならない。
そして、さらに、参政党などの極右諸勢力の活動家による行政機関や教育機関でのレッド・パージの策動もすでに始まっている。われわれは、いっさいの統制弾圧に抗して闘おう!
首相・高市が「国家情報会議」を司令塔として軍事力の強化と治安弾圧を一挙に強化しようとしていることに労働者階級は団結して闘おう!
労働者・学生は日本帝国主義国家権力の戦時体制の構築に反対し、高市政権を打倒するために闘おう!
いっさいの帝国主義戦争反対!帝国主義諸国家の打倒をめざして闘おう!
(2026年7月15日 赤井龍緒)










