イスラエル・ネタニヤフ政権による軍事攻撃反対! パレスチナ人民虐殺を許すな!

全ての労働者・人民は一切の民族主義的・宗派的分断を越え、同じ被支配階級としての国際的団結を創造しよう!パレスチナイスラエル全域でのプロレタリア的解放のために共に闘おう!

 

(1)
 ガザ地区に侵攻しているイスラエル国防軍(IDF)は、11月15日未明、ハマス軍事拠点が隠されていると見立てたアル・シファ病院の内部へと突入した。
 ここで勤務する医療スタッフはその一週間前から、凄惨きわまる現実を伝えていた——「ここは病院の4階ですが、スナイパーがいます。4人の患者が院内で撃たれました」、「病院を出た人の中には、南部を目指す人もいます。そのような家族が爆撃に遭っています」、「シファ病院では今日の朝から、電気も水も食べ物もありません。私たちは限界です」。これは「国境なき医師団」所属の外科医、ムハンマド・オベイド氏の証言である。数千人が避難してきたこの病院には、少なくとも約600人の入院患者がいて、40の早産児が保育器の中にいたとされる。イスラエルが電力供給を遮断したために、保育器も人工呼吸器も機能停止した。その結果、すでに13日時点で新生児6人が死亡、15日には集中治療室(ICU)で治療を受けていた63人の患者のうち43人が酸素欠乏で死亡した(17日、病院側は「大半が死亡した」と発表)。イスラエル軍による制圧後、たった1時間に限って現地視察を許可されたWHOのチームは、80人以上が病院敷地内に埋葬されたことを確認している(11月18日)。現時点で、イスラエルの地上軍侵攻により殺された人々の数は1万4千人をはるかに超える。
 病院に対する攻撃は、ブルジョア国際法の次元でも認められていない戦争犯罪である。世界各地で多くの労働者・市民が非難の声を上げているのは当然のこと、アメリカ帝国主義の政府当局者でさえ、病院が標的になっていること自体には懸念を示した。そこでイスラエル軍は保身のために、病院内部で発見したというハマスの武器やバイク、「戦闘指揮所」なるものを動画で公開した。だが、そこに映されているのは、MRI検査機器の裏に隠されたカラシニコフ小銃だとか、「防弾ベスト数着、手投げ弾3個、CD数枚、拳銃1丁、ノートパソコン1台、リュックサック1個、ナイフ数本」でしかない(BBCの報道による)。イスラエル国内のメディアでさえ、「18時間以上捜索したのに、ハマスがいたことを示す証拠としては期待をはるかに下回る」と嘆くほどなのだ(『エルサレム・ポスト』紙)。イスラエル軍は19日になってようやく、ハマスの「地下トンネル」「司令部」なるものの映像を公開したが、その非人道的攻撃は如何なる理由によっても正当化されるものではない。
 とはいえ、ネタニヤフ政権にとって攻撃のための口実は何でも良かったのだ。彼らの狙いは、ハマスを殲滅してイスラエル南部の安全を確保することだけではない。ともかくも地上軍の重火器でもってガザ全体を廃墟にして、この場所でパレスチナの人々がそもそも生活できないようにすることが、彼らの目指すところなのである。まさしくナチスばりのこの野望を露呈させたのが、ガザ住民全員をエジプト領のシナイ半島に移送させるというイスラエル諜報省の文書「政策文書:ガザの民間人口の政治的方針の選択肢」であった(イスラエルのウェブサイト『シチャ・メコミット』(Sicha Mekomit)が入手して10月30日に公表)。
 イスラエル政府は近年、対パレスチナ政策として、ヨルダン河西岸地区とガザ地区とを切り離すことに重点を置いてきたと言われている。すなわち、エルサレムベツレヘム死海のような宗教的聖地が多くあり、ユダヤ人入植地も広範囲に確立された前者については、幾重にもわたる分離壁で住民の移動を妨げて徹底的な管理下に置く一方、小規模農業以外には目立った産業もないガザ地区については、これを専ら「天井のない監獄」にするというやり方である。こうしておけば、ハマスガザ地区の中に封じ込めておくことができるばかりでなく、両地区のパレスチナ人を日常的に難民状態へと陥れておき、必要な時には彼らを出稼ぎ労働者として搾取することができた——これまでは。しかし今回、ハマスによる10月7日の大規模攻撃が、状況を一変させた。慢心してきたイスラエル政府は事ここに至って、ハマスのみならずパレスチナ人全体をガザ地区から根こそぎ一掃することを企てている。シナイ半島への強制連行計画は頓挫したものの、パレスチナ人を難民にして他の土地へと——あたかも、古代のユダヤ人のように——離散させることが、ネタニヤフ政権の狙いなのだ。そのためにこそ彼らは、アメリカ製最新兵器の力をもって民家も農地もインフラも灰燼に帰せしめ、ガザを「生存不可能unviable」な状態(サラ・ロイ『ホロコーストからガザへ:パレスチナの政治経済学』)にしようとしている。「我々は人間の顔をした動物と戦っている」(イスラエル国防大臣・ガラント)などと述べて恥じないファシストどもの蛮行を、われわれは絶対に許してはならない。

 

(2)
 イスラエル政府がパレスチナ人民に対して今まさに行使している暴力は、アパルトヘイトだとかエスニック・クレンジングだとかの既存の言葉では収まりきらないほどのものである。これに多くの人々が心を痛め、街頭に足を運んでイスラエル政府に対する憤怒の声をあげている。われわれがここで明確にしておかねばならないのは、今回の戦争が、一つのブルジョア国家とそれに占領された地域の武装勢力との間での局地紛争にとどまるものではない、という点である。そうではなく、このガザでの「非対称」戦争はウクライナ戦争と並んで、東側の帝国主義陣営と西側の帝国主義陣営とがぶつかり合う、その軍事的な発火点たるの意味をもつ。
 このことを問わず語りに明かした人こそ、ウクライナ大統領・ゼレンスキーだった。10月7日のハマスによる奇襲攻撃の報に接して、彼はすぐに「イスラエル自衛権支持」の立場から次のように述べた。「イスラエルを攻撃しているのはテロ組織で、ウクライナに攻撃を加えているのはテロ国家だが、本質は同じだ」、「ロシアが何らかの方法でハマスの軍事行動を支援していると確信している」、「今回の危機は、ロシアが世界中で不安定化工作を試みている証拠だ」、云々。〈侵略しているものは誰であり・蹂躙されているものは誰であるのか〉——ゼレンスキーの応援団・「革マル派」中央官僚は、ウクライナ国家防衛の正当性を主張するときに常日頃こう言っているのだが——を完全に取り違えたこの発言は、しかし実のところ、西側帝国主義陣営に支えられたウクライナ国家の権力者ならではの利害関心をあからさまに表白したものである。米・欧が東側の帝国主義陣営との対決においてウクライナ以外の地域でも対処を迫られるならば、遅かれ早かれウクライナ問題は後景に退き、軍事支援予算は縮小される可能性がある。現に、11月2日にアメリカ下院で共和党の賛成多数により可決された「つなぎ予算」案は、軍事支援の対象をイスラエルに限定したものであった。ゼレンスキーが危機感を抱くのも至極当然である。
 かくして「パレスチナ問題」は今や、これまでとは違う意味を帯びてきた。それ故にわれわれはこの紛争の一般的構造を知るだけではなく、今回ハマスによって敢行されたイスラエル南部への10・7攻撃、その歴史的特質を把握する必要がある。この点で注目すべきは、今回の一連の事態を通じてイスラエルサウジアラビアとの間の国交正常化交渉が完全に頓挫したこと、そしてアメリカに代わって新たな帝国主義国たる中国が、中東諸国の外交関係を仲介する大役を担い始めたことである。
 まだトランプ前政権の時代の2020年、アメリカ帝国主義は、アラブ首長国連邦およびバハレーンとイスラエルとの間を仲介して「アブラハム合意」を成立させた。この仲介自体、ペルシャ湾岸の産油諸国とイスラエルとの双方に対して影響力を増しつつあった中国に対抗するという意味を含んでいたのだが、これに猛反発したのがガザの地域権力・ハマスであり、イランであった。アブラハム合意の拡大により中東諸国が次々と対イスラエル関係を正常化するならば、これはハマスにとって、パレスチナ国家独立のための後ろ盾を失うことになり、またイランにとっては、ペルシャ湾を挟んだ目と鼻の先にアメリカ帝国主義の軍事的・経済的秩序が打ち立てられることになる。サウジアラビアイスラエルとの間で国交を正常化させ、関税を課す輸出入品目を大幅に削減する——このような合意がアメリカの仲介により実現目前にまできた段階で、それを打ち砕いたのがハマスによる10月7日の攻撃だったのだ。同じムスリム同胞を公然と裏切るわけにはいかないアラブ諸国としては、イスラエルによるガザへの地上軍侵攻に対して抗議する以外にない。ハマスは、イスラエルが凄惨な報復=ジェノサイドを繰り広げるであろうことをあらかじめ考慮に入れ、それを政治的に利用するつもりで、かのテロ攻撃・人質作戦を敢行したのは間違いない。実際、サウジアラビアは今回の事態を受けてイスラエルとの国交正常化交渉を「凍結」させた(10月15日)。
 ともかく、米国の中東政策はイラクでの大失敗に引き続いて、またもや破産を突きつけられた。この空隙をぬって登場してきたのが、中国である。11月20日、サウジアラビア、ヨルダン、エジプト、インドネシア、そしてパレスチナ自治政府の各外務大臣イスラム協力機構(OIC)のタハ事務局長をはじめとする面々が、パレスチナ問題について協議するために北京を訪問した。この場で中国の王毅外相は、アラブ・イスラム諸国の合同代表団が「中国を国際調停のための最初の訪問地としたことは、中国に対する高い信頼を示すものであり、双方の相互理解と支持の素晴らしい伝統を反映するものだ」と誇らしく述べたのである。これは、アメリカ主導の「アブラハム合意」が破産したのを尻目に、今後は中国が主導して中東地域の新秩序を築いていくという意志の宣言にほかならない。
 付け加えておくと、中国はイスラエルに対しても影響力を行使できる立場にある。かつてイスラエルは、中国にとってはロシアに次ぐ武器供給国であったし(アメリカの警告により現在は表向き輸出を停止)、中国は、ハイファ港の25年間にわたる運営権を獲得してイスラエルのインフラ事業に相当程度食い込んでいる。今回、バイデン政権がガザへの全面戦争を再三制止したにもかかわらず、そのコントロールが十分に機能しなかったことの背景には、ネタニヤフ政権がこれまでの対米依存から脱却して中国をもう一つの戦略的パートナーとして位置づけ始めていたことがある。悪評の高い司法制度改革案と度重なる汚職の故にイスラエル国内での支持を失っていたネタニヤフに手を差し伸べていたのは、習近平政権であった。こうしてアメリカの没落を尻目に、中国は新しい帝国主義陣営として台頭しつつあるのだ。
 このようなパワー・ゲームの中で「パレスチナ問題」は、東西の帝国主義ブロックが互いに駆け引きのために利用する材料のひとつであるにすぎない。このことを承知の上でハマスは、イスラエルが報復攻撃の中でつくり出した「人道危機」を十分に利用して、アラブ・イスラム諸国とアメリカ帝国主義との間に楔を打ち込むことに成功したのである。

 

(3)
 ネタニヤフ政権によるジェノサイドに抗議する運動は今や全世界に広がっている。イスラエル国内での反戦の声は、人質解放のために停戦を求めるデモにとどまっている一方、アメリカでは在米ユダヤ人が「われわれの名で戦争をするな(Not in our name)」と声を上げ、ワシントンの連邦議会ビルに突入する闘いを繰り広げて300人余の逮捕者を出した(11月18日)。パレスチナへの連帯を口にすればすぐに「反ユダヤ主義」だと悪罵が飛んでくるヨーロッパにおいても、ジェノサイド反対の運動は粘り強く続けられている。こうした各地での闘いと連帯し、われわれはプロレタリア国際主義に立脚して、パレスチナ人民虐殺に反対する闘いをそれぞれの職場・学園・地域からつくりだそう!
 言うまでもなく、イスラエル人民とパレスチナ人民とが同じ労働者階級として連帯をかち取り、ネタニヤフ政権打倒のために闘うことこそが、「パレスチナ問題」を解決する唯一の道である。そのためにわれわれは、イスラエルの労働者階級に対してはシオニズムイデオロギーからの決別を呼びかけ、パレスチナの労働者階級に対してはアラブ民族主義ならびにイスラーム復興主義との対決を呼びかける必要がある。
 たしかにハマスによる10・7攻撃は、イスラエルの軍事的支配の下で絶望的な状況に置かれていた人々から喝采を集めた。これまで二次にわたる大規模な「インティファーダ」はその都度圧倒的な軍事力で鎮圧されてきたし、またイスラエル領内での自爆攻撃——2002年、ジェニン大虐殺に抗議して「眠れるアラブの戦士よ、目を覚ませ」との遺書を残して殉教した女子学生、アヤト・アフラスの名前を記憶している人も多いはずだ——は、分離壁の建設と厳しい検問体制によりきわめて困難となった。ガザが完全封鎖されてからすでに16年、十分な上下水道も電力も医薬品もなく、若者の失業率は7割にも上って自殺者があとを断たない絶望状況の中で、抵抗の術を次々と剥奪されてきたのがパレスチナの人々である。今回イスラエルの間隙をついてハマスが敢行した越境攻撃、その報に接した人々の胸のすくような思いはいかばかりであったか、と思う。
 しかしながら、イスラーム復興主義に基づきテロを主要な闘争手段とするハマスの下では、パレスチナ解放の達成はいつまでも不可能である。すでに長年、「イスラエル人」と「パレスチナ人」とが民族的・宗派的に対立させられている中で、イスラエルの支配階級と非支配階級とを区別することなく一様に「ジハード」の対象とするようなハマスの戦闘は、双方の間の憎悪を一層かき立てることにしかならないからである。この分断を、東・西の帝国主義ブロックそれぞれが政治的に利用していることを忘れてはならない。そして10・7のテロ攻撃では、ユダヤ人ばかりでなく東南アジアからの移民労働者もまた多く殺害されたことも、ここに銘記しておくべきだろう。
 今や世界は、米・欧・日を中心とする西側の帝国主義陣営と、ロシアおよび中国を中心とする東側の帝国主義陣営とが対峙しあい、いわゆる「グローバル・サウス」諸国がその間に第三極として振る舞う、三つ巴の構図を呈している。ここにおいてハマスは、権力政治の論理の中へと自ら入り込み、自らの政治的利害のためにパレスチナ人民の生命をも利用している。この意味で彼らは、今はどれほど多くの民衆から信頼されていようとも、すでに一個の地域権力としてパレスチナ人民を上から支配する存在なのである。
 したがって、われわれプロレタリア国際主義の立場に立脚する革命的左翼は、イスラエルプロレタリアートに対してネタニヤフ政権を打倒するべきことを呼びかけると共に、パレスチナプロレタリアートに対してはハマスからの決別を呼びかけていくのでなければならない。その際、欧米左翼の一部諸君のように、ハマスをはじめとするイスラーム復興主義勢力を「反動的テロリズム」だとかのレッテル貼りをもって批判するのは、誤謬である。それは外在的批判でしかなく、何故にハマスパレスチナの民衆から今なお支持されているのかをつかみ取ることができないまま、イスラーム復興主義勢力を専ら「中東ブルジョアジー」やイランの「律法学者のレジーム」によってテコ入れされた存在だと見る以外にない。ハマステロリズムにプロレタリア国際主義を対置して後者こそが“正しい”立場であると原則的に主張するにとどまっている限り、絶望の中でテロリズムという術にしか訴えることのできないパレスチナ人民の内面に迫ることも、いわんや彼ら・彼女らがハマスから決別し革命的階級として自らを組織するよう促すことも、不可能である。
 欧米左翼の諸君がそうした限界を突破できていない根本的な理由は、スターリン主義の破産を〈いま・ここ〉で超克していくという実践的立場を欠いているからだ。「前近代的」とも言われるイスラーム復興主義勢力がこの21世紀に伸長しているのは、20世紀にソ連・スターリニスト官僚がパレスチナ解放機構(PLO)のゲリラ戦を支援する形で主導した「民族解放闘争」が挫折したことに基づく。すなわちそれは、ユダヤ人とパレスチナ人とが共存する「民主的・非宗教的パレスチナの建設」を名目上では掲げながらも、事実上は1947年国連決議に基づき、歴史的パレスチナの地における「アラブ人国家」「ユダヤ人国家」「特別都市エルサレム」の併存を肯定する以上のものではなかった。スターリニストの利害関心は、将来において独立するべきパレスチナ国家を周辺のアラブ諸国と共にソ連の勢力圏内へと取り込むことにあったのだ。しかし、親ソ連的な「汎アラブ主義」諸国における「非資本主義的発展」が行き詰まりを見せ、その後のスースロフ的な「革命の輸出」方式もまた破産した。イスラーム復興主義勢力は、まさしく「一国社会主義」の地理的拡大をもって「民族解放」の達成を目指すスターリニスト方式が破産したが故に、ムスリムの心をとらえたのである。われわれは、この破産したスターリン主義を根底から否定することによってイスラーム復興主義をのりこえ、プロレタリア国際主義を貫徹するのでなければならない。その拠点こそ、世界革命の立場にほかならない。

 全ての労働者・学生・知識人諸君!ネタニヤフ政権とハマスは、11月24日からの一時休戦に一応は合意し、人質交換を進めている。しかしながら、危機が過ぎ去ったのでは何らない。イスラエル国防相ガラントは傲然にも、「戦闘は二ヶ月つづく」「ガザ市で行ったことは、ガザ全域で起きる」と明言した。彼らはガザ地区北部の住民に南部への退避を勧告しておきながら、次にはこの南部を標的にしようと企てているのだ。そしてまたネタニヤフは、諜報機関モサドに対しカタールやシリアに亡命しているハマス指導部メンバーを殺害するよう指令を下したことを公に述べた(11月22日)。このようにして、戦争放火者どもは中東の「火薬庫」で次々と火を投じているのであり、それは東・西の帝国主義ブロック相互の衝突のもとで、遠くない将来に世界中へ飛び火していくだろう。だがわれわれは、数多の人々の血が流されていくのをただ座視するわけにはいかない。全ての皆さん!国際主義に立脚し、労働者階級の階級としての組織化を推進することを基礎にして、パレスチナイスラエル全域でのプロレタリア的解放のために共に闘おう!

(2023年11月26日 春木良)

「歴史的パレスチナ」における領土の変遷