国際資料:ロッタ・コムニスタ論文「世界秩序の危機と中東における戦争」(その2・完)

(承前)
 世界秩序の危機は進行し、緊張が高まりつつあり、そして紛争の温床が再び過熱しつつある。ハマスによる南イスラエルへのテロ襲撃とイスラエル軍のガザでの反撃は、地域規模に広がる可能性のある紛争の引き金を引いた。ガザでの戦争が、イスラエルレバノンとの北部国境にいるシーア派ヒズボラ民兵を巻き込み、ハマスと同様に彼らを保護する勢力であるイランをも巻き込むことになれば、紛争は拡大する可能性がある。『反動的テロリズム帝国主義的ヨーロピアニズム、共産主義インターナショナリズム』の中で10年も経たない以前に示された参照点は、今や統合され、更新される必要がある。
 第一に、1973年のヨム・キプール戦争第四次中東戦争〕から50年後の今日、ガザでの戦争が確証しているのは何よりも、国民国家原理the national principleが帝国主義の時代において、とりわけ中東の地域的諸矛盾の中で、行き詰まりを見せているということだ。列強だけでなく、互いに競合する中東のあらゆる国家権力もまた、パレスチナ住民の独立を支持すると称して国民国家原理を振りかざす時もあれば、別の時にはそれを冷笑的に投げ捨ててきた。テロリストの様々な分派集団も含めて、諸勢力はこの国民国家原理をファナティックに利用し、それを汎イスラム主義の反動的な変種にまで堕落させたのである。加えて言えば、イスラエルブルジョアジー自身、ハマスの強化と無関係ではない。パレスチナの戦線を分裂させ、ヤーセル・アラファートのパレスチナ解放機構(PLO)およびパレスチナ自治政府(PNA)に対抗するために、イスラエルはガザにおけるハマスの定着を後押ししたのである。この意味では、アラブ=パレスチナナショナリズムイスラーム急進主義へと変容するのをコントロールできると盲信したイスラエルブルジョアジー側の戦略的破綻は、アラブ・ブルジョアジーイデオロギー的破綻と並ぶものとしてある。
 第二に、われわれの国際的な階級原理——すなわち、イスラエルブルジョアジープロレタリアートが存在し、アラブにブルジョアジープロレタリアートが存在すること——を確証するものとして、今回の危機が明らかにしたのは、キブツの中にアジア系移民がいるというこれまで過小評価されてきた現実である。すなわち、そこには数千人のタイ人日雇い労働者がおり、そのうちの数十人は、ハマスによる襲撃の犠牲者なのである。イスラエルにおける社会的流動性は、中東全体、特に何百万人もの移民プロレタリアたちがいる湾岸君主国のそれと似ている。国家的・宗教的神話が労働者階級を分断し、彼ら・彼女らは何十年もの間ただ殺されるがままに追いやられてきたのであるが、ただ共産主義インターナショナリズムのみが、労働者階級のあらゆる階層の団結に向けた戦略的展望を提供しうるのだ。
 かくして第三に、世界秩序の危機がある。大西洋諸国の衰退と中国の台頭の結果、これまでの力関係が地球規模で崩壊した。これによって古い断層が開かれ、地域固有の危機に火がつけられつつある。この意味において、ウクライナ戦争、10万のアルメニア人が官許の下で民族浄化され虐殺されたナゴルノ・カラバフ危機、そして今回のガザ戦争、これらの間には結びつきがある。グローバルな力関係も地域的な力関係も変化しつつある。すなわち、アメリカの没落と中国の台頭との狭間で、中堅国が行動を起こす余地はますます拡大している。臨界点では再び炎が上がり、バランスが調整されながら再定義されつつある。これが「残忍」なものとなることを予想しているのは、フランス国際関係研究所(IFRI)のトマ・ゴマール所長である。
 『フォーリン・アフェアーズ』誌のとあるエッセイにおいて、ブルッキングス研究所の副所長兼外交政策プログラム・ディレクターであるスザンヌ・マロニーは、ガザでの戦争を「中東におけるアメリカの撤退戦略の終わり」と見ている。彼女の見解によれば、ジョー・バイデンは、この地域における新しいパワー・バランスを仲介しようと試みていた。その試みは、ワシントンが自らの関与を削減しつつも「北京がその空白を埋めないようにする」のを可能にするはずのものであった。イスラエルサウジアラビアの関係を正常化する歴史的な合意がほぼ成立したことで、米国の二つの主要な地域パートナーが協調してイランという共通の敵に対抗し、「サウジアラビアを中国の戦略的軌道の外側に固定する」ことが約束されていた。この試みと共に、バイデンはイランとの緊張緩和にも努めた。彼は、ドナルド・トランプによって廃棄された「イラン核問題に関する包括的共同作業計画」(JCPOA)の復活を試みたが失敗し、最後の頼みの綱として、プラグマティックな取引と非公式協定という戦術を急ごしらえで用意した。
 「アブラハム合意」〔イスラエルアラブ首長国連邦との間で2020年に締結された相互承認協定〕のサウジアラビアへの拡大がもし成功していれば、「この地域の主要プレイヤーである二国間の新たな連携が、中東全般の安全保障環境と経済環境に対して真に変革的な影響を与えたかもしれない」。マロニーによれば、まさしくこの故にこそ、試みは失敗に終わった。バイデンは、イランが和平構築に関心を抱いているのだという大いなる誤解を抱いていたのだ。「イラン指導部には、イスラエルサウジアラビアの劇的な和解を阻止しようとするあらゆる動機があった。彼らがとりわけ阻止したかったのは、アメリカの安全保障がリヤド〔サウジアラビアの首都〕へと拡大され、そしてサウジアラビアによる民生用原子力プログラムの開発が容認されてしまうことだった」。
 イスラエルでは、ガザ地区との境界線を無防備のままにしておくという驚くべき判断ミスをめぐる議論の故に世論が引き裂かれているが、これはイスラエル政府がハマスに関して採用した路線の直接的な結果であり、元・駐イスラエル米国大使のマーティン・インダイクの見解では、「イスラエル側の完全なシステム不全」によるものである。別の見解によれば、二つ目の判断ミスはアメリカ側によるもので、トランプ主導の「アブラハム合意」の枠組みをバイデンがそのまま維持したことに関わっている。この政策が失敗したのは、イスラエルアラブ諸国の間でパレスチナ問題の解決策を脇に置いて——つまり未解決のままにして——合意できるという見通しが、単なる願望でしかなかったからだ、と言われている。こう唱えているのは、例えば北京であるが、この主張は中東地域における中国のイニシアティヴの礎石である。また、これはマロニーの主張であるが、米国・イスラエルサウジアラビア間の合意を脅威として認識し反応したテヘランに関する政策は、失敗した、と言われている。この二つの異なる説明は組み合わせることができる。すなわち、パレスチナ問題はハマスのみならず、イスラエルアラブ諸国との間の断層線に楔を打ち込もうとするイランにも、行動の余地を与えているのであり、これこそは、イスラム律法学者のレジームが代理プレーヤーを介して行動するために格好の「民族的口実」なのだ。
 しかしながら、中国の影響力に対抗してリヤドにしがみつくことがアメリカの狙いであったと仮定するならば、その「過ち」を単に彼ら個々のミスだと主観主義的に解釈するのを避けられることがわかる。イスラエルが安全保障上の致命的な過失を犯したのは確かなことだとして、いずれにせよアメリカの行動は、中国との関係に規定されたその地域政策によって説明されうる。今回ハマスに攻撃の隙を与えてしまったことがアメリカ側の過ちであったとすれば、これは特殊な過ちであり、今後も続くことが運命づけられている北京との影響力争いの中での攻防の一コマであった。また、サウジアラビアに関するアメリカのイニシアティヴは、手段は異なるといえども、20年前のイラク戦争と同じ性質を持っていることもまたわかる。すなわち、昨日まではペルシャ湾における中国の台頭を未然に防ぐことが、そして今日ではそれを遅らせることが問題なのである。
 ワシントンと北京の間での影響力争いが確証しているのは、世界秩序の危機が、潜在的であった対立を再燃させている根本原因だということである。別のフィールドでの競合によって際立っていることだが——IMFでの議決権を中国の重要性に見合うように変更することに対してのアメリカの抵抗を思い浮かべさえすればよい——、ワシントンは、西側の旧来の秩序がまだ機能していることを示したがっている。しかし、その提案と実行力が十分なものであるのかについて疑問を投げかけているのは、北京だけではない。これに真っ向から対立するのは、中国抜きでは新しい秩序も秩序の修正もあり得ないという命題である。とはいえ、中国に相応の役割を与えることは、大きな地殻変動となる。中国を抜きにした新秩序はないのだが、しかし中国が途方もなく重大であると認識することは、大西洋の古い秩序を守る勢力にとっては自らの戦略的縮小を意味するだけに、それが平和的に受け入れられるかどうかは疑わしい。世界秩序の危機が、その崩壊の地平を垣間見せているのだ。
 ガザ戦争が勃発して、この問題はワシントンと北京の両方で、異例なほど明確な形で議論されている。米国と欧州連合イスラエルに節度を示すよう促しているが、しかし『環球時報』紙が書いているように、「認めなければならないのは、停戦を実質的に進め、戦争を終わらせることのできる強力な力は、現在のところ国際的には存在しないという現実だ」。「停戦の方向へと導くには、すべての国が共同で努力する必要があり、国際的に影響力のある大国が模範を示すべきである」。
 バイデンがホワイトハウスの中からこれに答えて言うには、アメリカのリーダーシップこそが「世界をひとつにするものだ」。『フランクフルター・アルゲマイネ』紙は、バイデンのこの態度が、マデレーン・オルブライトクリントン政権時代の国務長官〕の打ち出した「不可欠な国」というアメリカ例外論〔民主主義の先進国アメリカだけは既存の国際法に拘束されないとする立場〕的なテーゼと呼応していることを指摘している。
 『ニューヨーク・タイムズ』紙のスティーヴン・アーレンジャー記者は、バイデンのイスラエル訪問とプーチンの中国訪問とを対照させている。この二つの外遊が示しているのは、グローバルな戦略的光景がウクライナ戦争によってどれほど変容したのか、そしてこの変容がガザでの戦争においてどのように開陳されつつあるかということだ。ロシア、中国、イランはすでに、ウクライナをめぐって「新たな枢軸」を形成しつつあった。「それら諸国は共に、第二次世界大戦以来西側によって支配されてきた既存の国際秩序を改革するという名目で、米国を非難しそれに反抗することの中に共通のイデオロギー大義を見出している」。戦争が明らかにしているのは、一方の西側諸国と、他方の中国およびロシア、その間での相違がますます拡大しつつあることだ。この相違は、ただ単に紛争であるのみならず、「グローバルな関係を下支えする諸々のルールについての見解の競合、そして誰がそれらルールを定義するのかについての競合」であるとも考えられる。
 ニューヨークの日刊紙に対する『環球時報』からの直接の応答は、報じておく必要がある。何故ならそれは、ワシントン、北京、そしてまた欧州連合が協調する可能性を排除していないながらも、秩序の改革を求める中国の路線をきわめて明確に示しているからだ。
 「歴史は、第二次世界大戦後に作られた秩序が変容していく転換期にさしかかっており、この転換期は激動に見舞われるだろう。旧来の対立の諸々が冷徹に再浮上してくる。[・・・]アメリカは中国を、自らの戦略的利害に対する主要な挑戦者として見ることによって、ワシントン固有の傲慢さと無知をグローバル規模のより広範かつ長期的な地政学的レベルで示している。中国を圧倒し、封じ込め、抑制しておけば旧来の秩序を維持できるとでも言うのだろうか?」
 「現にある秩序を伝統的な戦略的手段によって断固維持することは、ひとつの選択肢である。しかし、より開かれた思考でもって、グローバルな主要諸勢力と地域の諸勢力との間で、グローバル・サウス諸国とグローバル・ノース諸国との間で、ならびに新興国と旧来の諸大国との間で、コミュニケーションと協力関係を築くよう促して新たな秩序を構築することも、またもう一つの選択肢である。肝心なのは、こうした変化に対してアメリカと西側諸国がどのように対処するか、ということだ。彼らには権力を手放す意志があるのか、またそのような権力移行に対して十分用意ができているのだろうか?」
 一方のアメリカとEU、他方の中国、その間で事実上の協調の兆しがあるのは間違いない。前者はイスラエルに自制を求め、中国に対してはイランとの仲介を求めた。ワシントンは公然と、北京に対してテヘランとの仲介を要請し、北京もそれに同意したのだ。それにもかかわらず、ガザ戦争をめぐって両者が向き合うだけでは、『環球時報』が提起した問題は解決されないだろう。『フィナンシャル・タイムズ』紙が報じているが、エミール・ホカイム——ロンドンを拠点とする国際戦略研究所(IISS)の上級研究員——が言う通り、おそらく今回の危機はアメリカにとって、「サダム・フセインに対抗する連合を築かねばならなかった」1990年以来の最大の外交的難問だろう。しかし当時、この中東地域におけるアメリカの力は「夜明け」を迎えていたのに対し、「それは今日では日没であるように見える」。
 再び『フィナンシャル・タイムズ』紙によれば、中国とロシアの進出にもかかわらず、米国は依然として「このような危機を抑制するだけの外交力と軍事力を持つ唯一の勢力」であり続けている。ジョン・オルターマン——戦略国際問題研究所(CSIS)のディレクター——の見解では、相対的に見ても米国は今や、「10年前、15年前、20年前」にそうであったような存在ではない。しかし「米国が軍事的・外交的・あるいは情報収集の面でなしうることに匹敵できるような国家も国家連合も存在しない」。
 ワシントンは、地中海とペルシャ湾に二隻の空母を配備し、そうすることで1973年のヨム・キプール戦争の時のように核抑止力を振りかざしている。クウェートとアデン湾に二個艦隊を派遣している北京は2035年までに米海軍の半分にあたる6隻の空母を保有する計画だ。世界秩序の危機をめぐる闘争はまだ始まったばかりである。

(訳:春木良)
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