革命的左翼の現在的任務——破産したスターリン主義をのりこえるために 第二回ミラノ国際会議について(連載その1)

 2024年2月17日・18日の二日間にわたり、イタリア・ミラノ市内にて第二回の「国際主義者会議」が開催された。今回の議題は「列強間の闘争における決定的なポイント:ウクライナから台湾、アフリカから中東まで:労働者階級としての対応のために」である。ウクライナに続いて中東でも夥しい数の人々が死に追いやられている中で、この危機を突破するべき革命的左翼の分裂は、なお克服されていない。そうした中で、イタリアの共産主義組織「ロッタ・コムニスタ」を中心とする実行委員会が呼びかけたミラノ国際会議の場は、世界各地域の団体が率直に意見を交換し批判し合うことのできる貴重な場となっている。わが革共同・探究派は、昨年に引き続いて今回もまた、プロレタリアートの国境を超えた団結を創造するための方向性を提起してきた。今回ここに掲載するのは、会議のためにわれわれが事前に提出した論文の邦訳である(英語原文は、実行委員会が編集して発行する冊子に収録される予定。前回会議の記録はhttps://www.internationalistbulletin.comを参照のこと)。
(2024年3月3日  春木 良)

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 イスラーム主義組織ハマスによる2023年10月7日の攻撃と、それに対するイスラエル政府の報復は、ウクライナ戦争とともに、帝国主義世界秩序の危機を改めて告げ知らせた。2020年のいわゆるアブラハム合意の後、イスラエルサウジアラビアの間で新たな「和平」を調停しようとした米国の試みは完全に失敗した一方、習近平率いる中国は、アラブ側とイスラエル側の双方に対して「和平」の新たな仲介者として台頭しつつある。西と東それぞれの帝国主義陣営は、いわゆるグローバル・サウスの重要な一部であるイスラーム世界を自らの勢力圏に取り込むために、激しい対立を繰り広げているのだ。
 この間に、イスラエル軍による攻撃で虐殺されたパレスチナ人の数は2万2千人を超えた〔これは執筆時の数字で、今や3万人以上が殺された〕。ネタニヤフ政権はこの機会にハマスを殲滅するのみならず、ガザ地区の生活諸条件を破壊し、この地域を「存続不可能」にしつつある。われわれ革命的左翼は、相手を「人間動物」(ガラント国防相)などと呼んで恥じない現代のファシストたちのこの蛮行を許してはならない。パレスチナにおけるジェノサイドを阻止するためにも、そしてウクライナにおける帝国主義戦争を終結させるためにも、プロレタリアートの国際的団結を創造するために闘おう!以下では、これを達成するために必要な闘いの方向性に関して、われわれ探究派の見解を簡潔に述べておく。

(1)
 中東における残虐な戦争は、ただプロレタリアートの国際的連帯の力のみによって終わらせることができる。イスラエルそしてパレスチナの両プロレタリアートは、民族的・宗教的出自に関わりなく、同じ労働者階級として団結すべきである。われわれ革命的左翼の要求は常に、イスラエルを含んだ中東全域のプロレタリア的解放である。
 しかしながら問題は、この要求を実現する政治勢力イスラエルにもパレスチナにも存在しないことにある。イスラエルホロコーストに対する闘いを主導しているのは、イスラーム主義者たちなのだ。われわれは、この冷厳な事実を認めることから議論を始めなければならない。無論、イスラエルの労働者階級とブルジョアジーを区別しないテロリズムは、プロレタリア的連帯の可能性を破壊するだけなのだが。
 帝国主義的秩序に対抗する闘いがイスラーム主義によって掌握されている状況を、いかに変革することができるのか——これこそ、われわれが考えなければならない問題である。
 現時点、ヨーロッパの左翼はこの問いに明確な答えを出していないという印象をわれわれはもつ。例えばIMT〔国際マルクス主義潮流〕は、「勝利までインティファーダを」というスローガンを打ち出した。もちろん、抑圧された人々と連帯し、彼らの自由を求める闘いを支持するのは正当である。しかしながら、過去二回にわたるインティファーダイスラエルの圧倒的な軍事力によって粉砕されたのであり、だからこそパレスチナの人々は、自爆を含む絶望的なテロリズムに抵抗手段を求めるしかなかったのだ。次なるインティファーダを呼びかける共産主義者たちにとっては、パレスチナにおける抵抗闘争の主役がハマスであるという事実は、まるで存在しないかのようだ。彼らにとってハマスとは、ガザに対する暴力的支配を「テロとの戦い」としてイデオロギー的に正当化する口実をイスラエルに与えるだけの反動的な挑発者なのである。しかし、そのことに目を奪われるならば、何故にハマスパレスチナの人々からこれほどの熱烈な支持を受け続けているのかを理解するのが困難になる。IMTの同志たちは、「アラブ人であれイスラエル人であれ・イスラーム教徒であれキリスト教徒であれ・ドゥルーズ教徒であれユダヤ教徒であれ、すべての人民に故郷を提供する」、そのような「自発的な社会主義連邦」を創立すべきだと主張している。このヴィジョンがどれほど魅力的であるとしても、中東においては、ナショナリズムの相互衝突が一層進行しているのが現実であり、プロレタリア国際主義の理念は信用されていないのだ。われわれはこの状況を認識し、なぜこのような事態になったのかを省みなければならない。

(2)
 中東におけるマルクス主義の信用失墜とイスラーム主義の拡大は、スターリン主義の破産について省察しなくては理解できない。イスラーム主義が支配的な運動の一つであるからといって、それを中東ブルジョアジーの反動的イデオロギーと定義するのは性急すぎる。なぜなら、イスラーム主義は自らを反帝国主義闘争の勢力として自負しているからである。スターリニストが労働者階級を組織化して社会主義革命を遂行するのに失敗したからこそ、反帝国主義闘争は今日、イスラーム主義に取って代わられたのだ。
 実際、イスラエルの占領下で長期間にわたり抑圧されてきたパレスチナ人民は、社会主義者よりもイスラーム主義者を信頼している。われわれが単にイスラーム主義に対してプロレタリア国際主義を対置して、後者こそが「正しい」のだと原則的に主張するのでは、ムスリムの心に入り込むことはできない。ハマスから決別し革命的階級として自らを組織化するよう中東の労働者たちに促すためには、イスラームの復興主義イデオロギーがなぜこの現代世界において依然として強力な力を持っているのかを認識しなければならない。
 この点で注目すべきは、中東の国民国家が、西側資本主義とは異なる政治経済システムを志向していたことである。この関連において、重要な役割を果たしたのはソ連邦であった。すなわちスターリニスト官僚は、ここに「非資本主義的発展の道」の可能性を見出し、この地域に経済的・軍事的支援を提供することで自らの勢力圏を拡大しようとしたのである。ソ連邦によるPLOへの支援は、アメリカ帝国主義イスラエルとの同盟に対抗するものでもあった。
 だがスターリニストの「後進国における革命」の試みは、それが「一国社会主義」の地理的拡大にすぎなかったのであるから、最初から破綻を運命づけられていたと言うほかにない。彼らの手口は次のようなものだった。(1)民族ブルジョアジーの「進歩的な」部分を見つけ、そして現地の共産党をこの体制に協力させること。この場合、ソ連邦は「非資本主義的発展」を支援するために、民族ブルジョアジーとの直接的な協力関係を作り出した(イラクやシリアなど)。(2)あるいは、ソ連が支援できるほど十分に発展した民族ブルジョアジーが存在しない国の場合、スターリニストは親ソ将校団に命じて軍事クーデターを起こさせ、権力を掌握させて最終的にはソ連軍を直接介入させた(アフガニスタン、これはミハエル・スースロフ的な「革命の輸出」方式に基づく)。
 いずれの場合にせよ、スターリニスト官僚は「上からの」命令によって伝統的なイスラーム共同体を暴力的に解体した。これに対するムスリム住民の反乱は決して軍事的に抑圧できないのであり、だからこそあらゆる親ソ政権が崩壊せざるを得なかったのである。まさしくスターリン主義の破産こそが、イスラーム主義が民衆の支持を獲得することを可能にしたのだった。
 パレスチナの状況も基本的には同じである。「民主的・非宗教的パレスチナ」というスローガンを表向き掲げてはいたものの、スターリニストは実際には、パレスチナ人民を冷戦のサッカーボールとしてしか扱わず、イスラエル人とアラブ人の連帯を組織することは決してなかった。ハマスが闘争の主流として登場したことは、旧来のPLOにおける親ソ的な諸派の破産を意味している。言うまでもなく、この代替勢力たるハマスが、パレスチナ解放闘争により良い未来をもたらしたのでは決してない。

(3)
 われわれは、この現下の危機についてのマルクス主義的分析を深め、階級闘争を前進させる方向を探求しなければならない。この課題は、理論的分析の観点からだけでなく、階級闘争の主体の立場において追究されるべきである。帝国主義の世界秩序が危機にあるからといって、革命的主体が自然発生的に成長するわけではないし、革命的指針を与えれば労働者階級が革命的に闘いうるのでもない。
 筆者は今まさに、「階級闘争の主体」と記した。つまり、世界革命を掲げるわれわれ国際主義者は、各国の階級闘争の現実に内在しなければならないのである——たとえ実際にはその場に実存するのではないにせよ。革命的左翼とは、状況を静観して、マルクス主義の原則をただ宣言するだけの者ではない。スターリニスト的「革命」の破産をのりこえることによってのみ、われわれは実際に国際主義を実現することができる。すなわち、スターリニストたちが、一連の「社会主義的」近代化を上から実施すべくして失敗したのに対して、われわれは今・ここで、「下から」階級闘争を前進させるために闘うことが問われている。中東のプロレタリアートイスラーム主義から解放しうるか否かは、われわれが革命のための具体的方向性をどの程度示すことができるかにかかっているのだ。
 このような追究は、われわれ自身のイニシアティヴを前提としている。われわれは、労働者階級の前衛たることを目指して、革命的な方向性を提示できなければならない。この意味において、レーニンの『何をなすべきか』が依然として重要な意義をもつことは明らかである。しかし、われわれの任務は、革命的意識をもたらすことに限定されるのではない。なぜなら、われわれ党員自身もまた一人の労働者として、プロレタリア階級の一部として実存しているのであり、階級の外にいるのでは決してないからである。社会民主主義者やスターリニストによって組織された既成の労働運動はすでに破壊され、ブルジョアジーの側に組み込まれている。だからこそわれわれが、あらゆる場所で階級闘争を推進する先頭に立たなければならない。われわれは階級闘争の主体として、仲間を組織し、闘争をゼロから創造し、仲間たちを革命的階級へと引き上げるのでなければならない。このような問題関心に基づいて、わが探究派は、職場と地域における実践的経験を積み、労働者階級を階級的に組織化するための理論的教訓を積み重ねてきた。各国の階級闘争を前進させ、プロレタリアートの国際的団結を獲得するために、まさにこの点について議論することを呼びかける。同志諸君!共に闘おう!
   (日本革命的共産主義者同盟探究派 2023年12月31日付)