労働者協同組合という現代のユートピア幻想 第1回 「「資本家・経営者・労働者」三位一体の働き方」という基礎づけ 

労働者協同組合という現代のユートピア幻想

 

「「資本家・経営者・労働者」三位一体の働き方」という基礎づけ


 労働者協同組合法という超党派議員立法が、二〇二〇年一二月四日の臨時国会最終日に参議院本会議で、全会一致で可決され、成立した。全会一致で可決というこのことに、今日の日本の階級闘争の現実が象徴的に映しだされている、といってよい。あたかも、労働者協同組合法の制定にかんしては、資本家階級と労働者階級との階級的な対立が存在しないかのような様相を呈しているからである。独占体の経営者の側からも、労働運動家の側からも、労働者協同組合は現代のユートピアであるかのように描きあげられ絶賛されているからである。
 労働者にとってとても良いものを結成することができるようになった、という雰囲気がかもしだされているこのこと自体が、ソ連崩壊以後の今日の日本において、労働者的な労働運動が壊滅していることに、すなわちプロレタリア階級闘争が壊滅していることにもとづくのである。
 新型コロナウイルス感染の急拡大という今日このときに、長年にわたって準備されてきたこの法案が採択されたということに、この法律の中身を明るみにだす鍵がある。
 この法律に規定されている労働者協同組合とは、労働者たちが出資して協同組合をつくり、彼らはこの組合形態の企業と雇用契約を結び協同して働くとともに、労働組合を結成することもできる、というものである。
 新型コロナウイルの感染拡大を防ぐために心身をついやし疲弊して、種々の介護施設や保育施設が閉鎖に追いこまれたり、介護労働者や保育労働者が退職を余儀なくされたりしてきた。自民党公明党および支配階級は、今後このような現状を打開するために、生活を守るために働きたい介護労働者たちや保育労働者たちを、自分たちで施設を維持したり新たに設立したりするように追いこんでいくことを目論んでいるといえる。
 また、多くの旅館や飲食店が廃業を余儀なくされてきた。支配者たちは、そこで働いていた労働者たちや同じようなところでいま働いている労働者たちに、上と同様のことを強制しようとしているといえる。
 さらに、地方では、農業や漁業やまた林業などで後継者不足が深刻である。地方ばかりではなくさびれた都会でも、特産の工芸品の作業場や優れた技術をもつ中小企業で、経営を継ぐ人がいなくて困っているところが多くある。支配者たちは、労働者出資の・非営利の企業体として、これらを継ぎ独自に発展させていくように労働者たちにうながすことを狙っているといえる。
 公明党のばあいには、創価学会に所属する労働者のなかに、上にのべたようなもろもろのところで働いている人が、それなりに多くいるのかもしれない。日々の生活に困っている労働者のなかには、創価学会の掲げる理想に希望を託している人もいるのである。
 支配階級と彼らの利害を体現する与党は、総じて、「働き方改革」「地方創生」という旗印のもとに、介護とか保育とかその他の業務にたずさわる労働者たちの、生活苦やそしてやさしい心や伝統技術を守り磨こうとする意欲につけこんで、彼らに、資本制的な激しい競争のもとで経営を守るためにみずから低賃金を耐え忍んで働くように強制することをたくらんでいるのである。
 他方、「連合」指導部は、――自分たちが支持する野党と手をたずさえて、――労働者たちが協同組合企業とのあいだで契約を結び・労働組合を結成することができる、という条項を盛りこんだことを、成果としておしだした。これは、労働組合の組織率がどんどん低下しているという状況のもとで、組合員を少しでも増やしたい、という彼らの願望にもとづく。しかも彼らは、労働者協同組合企業は 資本家・経営者・労働者 三位一体の働き方」である、というように基礎づけた。このようにこの三者を一人の人物が体現することを賛美しおしだすのは、資本家・経営者と労働者とが生産においても分配においても対立するものではなく、それらは単に企業における役割分担にすぎず、みんながいっしょになって企業を発展させるのだ、という・彼らの今日の徹底した「労資協議」路線を、労働者協同組合の問題に、彼ら「連合」指導部が貫徹したことにもとづくのである。
 旧総評指導部の流れをくむところの日本型社会民主主義の系列に属する組合主義者もまた、労働者協同組合法の成立を喜び、協同組合企業を創造していくことを、みずからの労働運動の推進の今日的に重点をおくべき一任務とした。これは、争議行為をやったり裁判や労働委員会に訴えたりしても、首切りなどの諸攻撃はねかえすことができず、また、困った労働者が駆け込み寺的に労働組合に加盟しても裁判などが終わるとやめていってしまい組合員がなかなか増えない、という現状を、倒産の憂き目にあった労働者たちでもって協同組合企業をつくり、この労働者たちを自労働組合(自分たちの労働組合)のメンバーとする、ということに、彼ら組合主義者が希望を託したものである。それは、現存支配秩序のもとで改良をつみかさねていくことにかすかな展望をみいだし、協同組合企業という現代におけるユートピアを、経営に四苦八苦し賃金をみずから切り下げても失業よりはましだと労働者たちに言い聞かせて、つくりだそうとするものなのである。
       (2021年1月2日  笠置高男)