労働者の階級的団結を構築し、新型コロナウイルス危機とたたかいぬこう  ――「雇用調整助成金」なるものの反労働者性

 〔編集部より 本論文は、4月21日に、同志西知生が執筆したものです。手違いのために公表が今日まで遅れたことをお詫びします。現下のコロナ危機にたちむかう労働者たちの闘いの指針を明らかにするために、この論文を読んでください。〕

 

  1 108兆円の緊急経済対策とは

 いま、全世界の、そしてわれわれ日本の労働者・人民は、新型コロナウイルスの拡散によって生命の危機と生活の危機に立たされている。
 すでに日本国内の感染者数は、1万人を上回った。首都東京においては、3000人をはるかに越えている。自民党安倍政権―厚労省が、東京オリンピック2020年開催のため、PCR検査を意図的に押さえつけている(現在もなお押さえつづけている)中でこの数字である。
 自民党安倍政権は、4月7日緊急事態宣言を発令。それにともなう108兆円の緊急経済対策を発表した。安倍は、事業規模はGDPの20%にのぼり、世界でも最大であると胸を張った。しかし、その内実は貧困である。
 そもそも経済対策に入れられている「感染拡大と医療提供体制の整備及び治療薬の開発」(2.5兆円)などというのは、経済対策というものではない。新型コロナウイルス拡散にたいする医療対策費ではないか。さらに「次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復」(8.5兆円)というのは、この新型コロナウイルス危機をのりこえた後の経済対策であって、現下の経済対策ではないのである。「強靭な経済構造の構築」(15.7兆円)も同様である。
 残るは「雇用の維持と事業の継続」(80兆円)である。これが、現下の新型コロナウイルス危機にたいする経済対策といえるものであろう。事業規模という日本独特の概念108兆円という中身のいわゆる真水と言われる部分、すなわち新たな財政支出は39.5兆円にすぎないのである。残りは、この真水の支出によって動くところの民間資金(42兆円)、企業の税や社会保険料の支払い猶予(26兆円)であって、あわせて108兆円だと胸を張るのである。いやいや企業の税や社会保険料の支払いは猶予されるだけであって、後で支払わなければならない金である。ペテンである。まさにペテンである。しかも、このペテン的緊急経済対策は「人と人との接触を8割減らす」という安倍の夢想に等しいもののうえにつくられているのである。ペテン的緊急経済対策が破綻するのは目に見えている。だからこそ、このペテン的緊急経済対策が発表された直後からすぐさま次の経済対策の必要性が言われるのである。しかも自民党の内部からである。
 絶対に許せないペテンがもう一つある。政府自民党・安倍―厚労省、そして東京都知事・小池は、東京都においてパンデミックという事態が進行していることを、3月初旬から中旬にかけてすでに医学的観点から想定されているこのことを、つかんでいたはずである。だからこそ、オリンピック延期が決まるや否や、東京はコロナウイルスが蔓延している、と発表したのである。まだある。大阪府知事・吉村が、大阪・兵庫も新型コロナウイルスが蔓延しているという厚労省の秘密情報を、彼の責任において生放送で暴露し、突然、大阪―兵庫間の移動の制限をうちだしたのである。このことから明らかなように、自民党安倍政権―厚労省は、そして東京都知事・小池は、PCR検査を抑え込むなかにあって、東京においてパンデミックが進行しつつあるということを、想定・把握していたのである。彼らは、労働者・人民をあざむき、新型コロナウイルスの渦のなかにたたき落したのである。
 さらに、彼らは、緊急事態宣言をめぐっても、安倍・自民党―小池のコロナバトルと揶揄されるものを展開し、政治的駆け引きをくりかえしたのであった。自民党・安倍とポスト安倍をねらう自民党政調会長・岸田と、それに割って入った公明党・山口のあいだの、給付金の30万から一律10万への転換をめぐる醜悪な駆け引きもそうである。彼らの頭の中には、新型コロナウイルス危機のなかで生き・そして生活している労働者・人民のことなど何もない、と言って過言ではあるまい。 

 

  2 「雇用調整助成金」なるものの反労働者性

 アメリカの失業保険の新規申請者数が4月16日現在、直近4週間で、2200万件を越えた、と報じられている。アメリカ政府が3月下旬に用意したPPP(給与保護プログラム)として中小企業向け人件費は、38兆円であった。それがすでに底をついたといわれている。
 日本ではどうか。失業給付金申請者数3・4月の数字は見あたらない。大きくとりあげるほどの数字にはなっていないということか。
 いや、街では、アルバイト・パートをやめさせられた、派遣先から契約解除された、という話があふれている。3月以降、労組・NPOに解雇・雇い止めの電話相談が急に増えていると報じられてもいる。「連合」がおこなった緊急相談会においても、解雇・退職強要・契約打ち切りの相談は、3月上旬から下旬の2回で、4件から49件へと大幅に増えているのである。
 数字にあがらない失業者・半失業者が多いのだ。アルバイト・パートの勤務日数・時間が半減したとしても失業にはあたらない。そもそも雇用保険の適用外と思っているアルバイト・パートの労働者が多い。さらに、いま雇用危機の直撃を受けている飲食・流通・サービス部門・エンターテイメント関連産業部門の労働組合の組織率はきわめて悪いのである。労働組合がないのである。
 労災保険はかけても雇用保険をかけていない労働者も多い。雇用保険の加入条件は、31日以上にわたり雇用される見込みであり、1週あたり20時間以上勤務があることとされている。経営者は、雇用保険を含め社会保険の対象外となるように、つまり会社の負担を軽減するために、非正規雇用労働者の就業時間をおさえる。その結果、非正規雇用労働者はWワークを余儀なくされてきたのである。
 いま、その労働者が職を失いつつある。しかも、再雇用の確約があるならば、つまり一時帰休の状態であるならば、「失業の状態」としては扱われない、失業保険の対象とはならないのである。
 政府自民党は、雇用を守るために「雇用調整助成金」の拡大をはかる、としている。経営者・雇用者に労働者の賃金補助をおこない、解雇・雇い止めを防ぐ、と言う。財源は失業給付と同じ、雇用保険の財源である。たしかに緊急経済対策において、この雇用調整助成金の適用拡大がおこなわれ、1週間の労働時間20時間以下の非正規雇用労働者にも適用されるようにはなっている。しかし、失業保険の方は、この適用拡大の処置はとられてはいないのである。
 しかも、この雇用調整助成金には大きな問題がある。経営者が助成金を受けとることができるのは事後であり、しかも受給できるまで2か月かかると言われている。厚労省は、1か月早めると言うのであるが、それは、申請行政の窓口が申請書類を受領してからのことである。申請の事務手続きの始めから受付・受給まではやはり2か月以上かかるだろうと言われている。それまで経営者・雇用者は、助成金相当分を立て替えて労働者にたいする賃金を支払わなければならないのである。しかも申請書類作成の作業が膨大なのである。「社労士を雇わなあかん」ということになるという。休業あるいは休業を目の前にして金融機関・行政機関を走り回っている中小企業の労働者・個人事業主にそのような時間的余裕はない。いやそもそも収入の途絶えた経営者も家賃などの支払いにおわれ、助成金相当額を立て替えて支払う余裕などあろうはずがないのである。助成金は〝休業〟が前提となるのであって、労働者の就業日数・時間の削減には対応し得ないのである。
 雇用助成調整金にたいする問い合わせは、4月13日までに11万8000件、4月10日までの申請者数460件、支給決定3件(日経新聞4月10日付)との数字が、雇用調整助成金がいかなるものであるかを示している。
 どれほどの労働者にこの助成金がいつ、ゆきわたるのであろうか。労働者・人民は、いま困窮しているのだ。この数字は、当然財務・厚労省官僚は予想していたにちがいない。彼らはバカではない。したたかなペテン師だ。
 「雇用調整助成金」の非正規雇用労働者への適用拡大はおこなっても、失業保険のそれはおこなわない。ここに、自民党・安倍政権の階級的意図が貫徹されている。経営者も労働者も一つになって、すなわち国民一丸となってコロナ危機をのりこえようというものである。彼らは、彼らが労働法の改悪に改悪をかさね、あらゆる産業部門・職種に拡大していった非正規雇用労働者が労働者として団結しはじめるのを恐れているのだ。

 

  3 労働者の階級的団結を構築し、新型コロナウイルス危機との闘いをたたかいぬこう

 東京において、ロイヤルリムジン株式会社が、600名ものタクシードライバーを解雇した。経営者は「雇用調整助成金」を一顧だにせず、600名もの労働者をこの時期に解雇したのである。いま、その解雇撤回闘争がつくりだされている。今後、同種の解雇がおこなわれだすのは必至である。600名の労働者の生活を守るためにも、そして今後このような労働者への首切り攻撃を拡大させないためにも、断固として、ロイヤルリムジン社の600名不当解雇を撤回させなければならない。同時に「数字にあらわれない」失業者・半失業者・正規および非正規労働者の階級的団結を、あらゆる方法を駆使してつくりださなければならない。
 すでに家賃の取り立てが始まっている。家賃保証会社(賃貸住宅契約の際に保証人の代行をすると銘うって契約させられる)が先兵となり、悪質な取り立てがおこなわれている。
 家賃の取り立てを止めさせよ!
 電気・水道・ガスのライフラインを止めるな!
 携帯電話を止めるな!
 賃金と生活を保障せよという闘いをつくりだそう!
 われわれ労働者は労働者として団結し闘う以外に生きる道はない。われわれ自身が闘いをつくりだす以外に生活を守るすべはないのだ。
 医療介護労働者・自治体労働者・教育労働者・飲食サービス産業の労働者・流通産業の労働者など多くの労働者が、職場であるいは通勤で、新型コロナウイルスの感染の危険にさらされながら、労働を強いられている。安全対策をしてほしい、といった非正規雇用労働者は、「いやならやめろ」と言われたという。各労働組合新型コロナウイルスにたいする通勤・職場での安全対策をおこなえ、という闘いをつくりだそう。感染した労働者が悪者にされている! 春闘をたたかう労働者も、春闘が終了した労働者も、新型コロナ危機にたいする緊急闘争を展開しよう!
 すべての労働者の命と生活を守るスローガンを掲げて闘争に起ちあがろう!
 ロイヤルリムジン社のタクシードライバー600名の解雇を許すな!
 あらゆる労働者の解雇を許すな!
 すべての労働者の団結をつくりだそう!
 「連合」会長・神津は、4月20日に、経団連会長・中西とテレビ会議をおこない、労使が協調して「雇用の維持や職場での感染拡大防止にとり組んでいくことで一致」したという(読売新聞4月21日付)。神津は「経済はフリーランス派遣社員など多様な働き方で支えられている」として、労働者を支援するセーフティーネットの必要性を強調したという。この男は労働者の生命・生活よりも「経済」のことを考えているのだ。労働法の改悪につぐ改悪を認め、大量の非正規雇用労働者すなわち「セーフティーネット」からぬけ落ちる労働者をつくりだし、資本家の負担を軽減させることに手を貸してきたのは「連合」指導部ではないか。神津「連合」指導部は、セーフティーネットの整備を政府と独占資本家にお願いするだけで、闘いを組織することなど、頭のなかにはまったくない。
 すべての労働者は、職場・生産点から、命と生活を守るために、正規・非正規の枠をこえた労働者の団結をつくりだし、「連合」指導部を弾劾して新型コロナウイルス危機にたいする闘いをたたかいぬこう!
 最後に。革マル派機関紙「解放」には、3月から4月現時点まで、出版労働者・電機労働者・自動車産業労働者・郵政労働者などなどの春闘論文が掲載されていた。それぞれ署名論文である。おそらく産別の指導的立場の活動家が執筆したものであろう。どの論文も残念ながら、新型コロナ危機との闘いを、正規雇用労働者・非正規雇用労働者・人民の枠をこえてつくりだそうと意志しているものを見ることはできない。
 彼らはおしなべて「憲法改悪阻止、日米新軍事同盟の強化反対、日本型ネオ・ファシズムの強化反対、安倍政権打倒」というスローガンでしめくくる。彼らはその立場から情勢を見てしまうのだ。いま現に新型コロナウイルス危機にさらされている労働者・人民の立場にたって情勢を見・考え・どう闘いをつくりだしていくのかと追求する思考が欠落してしまっている。端的なのは「解放」第2614号の一面である。2本の一面論文が掲載された。おそらく「日米新軍事同盟の強化反対! 憲法改悪阻止!」という論文が一面論文であったのだろう。そこに「労働者・人民の生活補償なき「緊急事態宣言」の強権的発令反対」という論文をねじ込んだのであろう。
 そこにはこう書かれている。「日本型ネオ・ファシズム国家による労働者・人民の諸権利を強権的に剥奪する「緊急事態宣言」の発令に断固反対せよ!」と。新型コロナウイルスの感染から労働者・人民の命をどのように守るのかという視点が欠落しているのだ。新型コロナウイルスの感染の危機とそれにともなう安倍政権の政治・経済政策によって生命と生活の危機に追い込まれている労働者の立場にたってどう闘いを構築していくのかということと、日本国家独占資本主義そのものの危機をネオ・ファシズム支配体制の強化によってのりきろうとする安倍政権の攻撃にどう闘いをつくりだしていくのかということが、統一的に明らかにされず、前者が欠落し後者にまとめあげられてしまっているのだ。それは、彼らが「憲法改悪阻止、日米新軍事同盟の強化反対、日本型ネオ・ファシズムの強化反対、安倍政権打倒」というおのれの方針から、すべて情勢を見てしまう、という認識方法に起因する。かつて「内乱・内戦・蜂起」を声高に叫んだ人間の思考法と同様に思える。


 革マル派に結集する下部同盟員、戦闘的良心的労働者・学生の皆さん、目をさまそう!
 いま、あなたたちの目の前の現実の労働者・人民の立場にたってたたかいをつくりだそう!
 もはや労働者・人民の現実から遠く浮遊存在になりはてた革マル派現指導部を弾劾・打倒しよう!
       (二〇二〇年四月二一日 西知生)