首相に就任した石破茂は、10月9日に衆議院を解散した。今や、いわゆる政界は、10月27日の衆議院選挙の投開票にむけての狂騒曲のただ中にある。自民党のいわゆる「裏金問題」をめぐっての党内抗争の激化と、野党諸党のこの問題を中心とした攻勢の強化というかたちで、総選挙は日本社会を賑わせている。日本共産党は、「野党と市民の共闘」などと称して、この選挙に全組織をあげてとりくんでいる。このような事態は労働者階級闘争の危機をもうかびあがらせている。
石破新政権の軍事力の飛躍的強化・日本ナショナリズムの貫徹の策動を打ち砕こう!
解散に先立って、石破はいわゆる「裏金(不記載)議員」たちの相当数を「非公認」、また「比例代表候補の限定」「小選挙区と比例との重複立候補」を制限する方針を打ち出した。自民党総裁就任直後には、(「裏金議員」の処遇については)「何も決まっていません」としていたのであるが、その後一転して上のような方針を打ち出した。この方針は、「裏金問題」をめぐる社会的反発をかわす煙幕であると同時に、「非公認」および「小選挙区・比例代表の重複立候補の否認」等とされた多くの議員たちが旧安倍派所属議員とりわけその重鎮たちであったことに端的に示されるように、旧安倍派勢力を崩壊させることを狙った策動に他ならない。旧安倍派の面々の中には衆院選不出馬に追い込まれるものも続出している。このことは、自民党総裁選挙で高市早苗を担いで起死回生の策にうってでた旧安倍派勢力が、決選投票では切り崩しにあって分解し、石破茂を担いだ勢力に敗北したことを基礎としている。〝自民党からの離脱〟をさえ臭わせつつ石破を牽制したにもかかわらず、彼らは敗北した。
安倍長期政権の下で数々の疑惑に見舞われながらも権勢をふるった旧安倍派は、かの安倍暗殺事件(2022年7月)とこれに連動した旧「統一教会」との癒着問題、そして今回の「裏金問題」を活用しての政治エリート内部の暗闘を通じて一挙に追い込まれてきたのであった。
だが、この暗闘は、〝派閥間の勢力争い〟にとどまるものではない。このことは、イデオロギー的には、日本独占ブルジョアジーの利害を体現する国家権力者・政治エリートどもが、旧安倍派の面々につらぬかれているナショナリズムを対米従属的なものとして否定し、日本国家の地位をよりいっそう高めた日米関係を築くとする新たな日本ナショナリズムを貫徹したことを意味するのである。この新たな日本ナショナリズムは、安倍亡き後に権力者の座についた岸田の軍事力増強政策とその基礎付け(〝米国のみに頼らない〟というそれ)にも示されていたのである。石破はこの岸田の策動を受け継ぐとともに、さらに飛躍させ、「国を守る」・「経済を成長させる」と叫びたて、明治政府の「富国強兵」の呼号を彷彿とさせるような策動を、お得意の丁寧調の詭弁をもって押し通し貫徹しようとしているのである。
われわれは、日本帝国主義のこの新たな策動を粉砕するために、労働者階級の力を結集して闘おう!
労働者階級の危機
を突破しよう!
だが、日本労働者階級は、いままさに危機にある。10月27日の衆議院選挙の投開票に向けて諸政党は、労働者の支持をとりつけようとして様々な策動を繰り広げている。
日本共産党は、傘下の全労連などの諸労働組合を集票の手段として利用しつつある。あてにしてきた立憲民主党などとの「共闘」もはかない夢と消え去った現時点でも、彼らは「裏金問題」で自民党が危機に陥っていることを絶好のチャンスとして「野党と市民の共闘」をかかげて総選挙に臨んでいる。彼らは日本帝国主義の新たな攻撃にはまったく無感覚なのである。「党勢」の衰退が続く彼らは、もしもこのような〝好条件〟のもとですら「躍進」できなかったら‥‥、という恐怖をも内心では抱いているのであって、ますますもって集票のために労働者を引き回すことに狂奔しているのである。
だが、これほど反労働者的なことはない。
じっさい、選挙ムードに突入した途端に、委員長・田村がメインの公約として押し出したのは、「巨額の軍事予算を医療・教育・福祉にまわせ」というものであった。これが「目玉」政策なのだ。
だが、考えても見よ。ウクライナ・ロシアでは二年を超えて戦争が繰り広げられ、中東では西側帝国主義に後押しされたイスラエルとイスラム諸勢力との戦闘が激化し、ガザやヨルダンではすでに数万人が殺されている。東アジアでも、中・北朝鮮を敵とみなした西側諸国(米・日・韓を軸として)の軍事力・軍事同盟の強化が推し進められている。日本政府は先制攻撃をも可能にするトマホーク等の導入に突き進んでいる。このような危機の真っ只中であるにもかかわらず、日本共産党は選挙に際して、日本帝国主義の軍事力増強政策にたいしてあたかも国家予算の配分の問題であるかのように主張してはばからない。これは、彼らが議会選挙で票をえるために打ち出す政策の観点からアプローチしているからであり、「健全な資本主義」をめざす修正資本主義の立場に転落していることにもとづくのだ。
いや、そもそも彼らが議席の獲得に狂奔する国会なるものは、ブルジョアジーが現存国家のブルジョア的本質を覆い隠し、「国民的な合意」のもとで政治を行っているかのように装う「イチジクの葉」でしかないのである。しかも、労働者に選挙で一票を投じることを求めるのは、労働者階級を個に分断して共産党(議員)候補に下駄をあずけさせ、労働者の団結と階級的主体性を破壊することなのである。「党勢」の衰退じたいもまた、このような議会主義的腐敗の必然的な帰結ではないのか。〝負のスパイラル〟といわずしてなんと言おうか。
われわれは、やがて一定の条件のもとで、ブルジョア国家権力打倒の闘いの主体となり、ブルジョア国家の諸機関(議会をふくむ「三権」の諸機関)にとってかわるプロレタリア国家の母胎となるべき労働者ソビエトの創造を可能とする主体的=階級的根拠を現在的に構築するために闘わなければならない。われわれはわれわれのブルジョア議会にたいする立場を「反議会主義」と規定する。
労働者階級の階級的組織化を進めるわれわれは、一切の議会主義に反対し、この「反議会主義」の立場を貫徹して闘うのでなければならない。
今や、日本共産党をはじめすべての「野党」(この用語じたいが、政権を担う「与党」の反対概念であり、議会内勢力でしかないことを示すものである)が10月27日の衆議院選挙投開票にむけてこぞって競い合っている。
〈与野党〉抗争の醸し出す〝選挙ムード〟のみならず、野党諸政党の労組指導部と結託した労働者の選挙への駆り立てという諸策動に抗して、われわれは労働組合員として、労働組合のない職場では一労働者として、そして地域などの諸々の場面で創意的に闘いぬこう!
(2024年10月12日 潮来一郎)