現段階における〈反帝国主義・反スターリニズム〉世界革命戦略

 〔以下に掲げる文章は、二〇〇八年に私が執筆し、わが探究派の結成とともに、われわれの世界革命戦略としてきたものである。これは、現段階における〈反帝国主義・反スターリニズム〉世界革命戦略をなす、ということができる。この文章は、二〇〇八年に私は内部文書として提出し討論を要求したにもかかわらず、当時のわが組織指導部は無視抹殺し、それ以降、沈黙を守ったままのものである。
 この文章の展開に照らすならば、彼らの、「中国=ネオ・スターリン主義」という規定の誤りも、彼らが〈反スターリニズム〉戦略(〈反帝国主義・反スターリニズム〉世界革命戦略の一契機としてのそれ)を破棄したことも、白日のもとに明らかとなる。
 「革マル派」現指導部よ。世界革命戦略にかんするわれわれとのイデオロギー闘争から逃げるために、われわれに「反革命」という非難を投げつける、というのは、あまりにもみすぼらしいではないか。
 下部組織成員諸君! この文章に主体的に対決せよ!
       2022年8月2日   松代秀樹〕

 


 現段階における〈反帝国主義・反スターリニズム〉世界革命戦略 

 二十一世紀現代世界はいまや〈米・中露新対決〉の様相を呈している。「一超」軍国主義帝国アメリカと対立している中国およびロシア、これらは、一九九一年の現代ソ連邦の自己解体とソ連圏の崩壊というかたちであらわとなったスターリン主義の破産、破産したこのスターリン主義ののりきり形態、破綻したスターリン主義の転化した形態にほかならない。
 中国スターリン主義官僚専制国家が「改革・開放」という名の資本主義化政策を貫徹してきたことをとおして、この国の政治経済構造は中国型の国家資本主義に変質した。土地の「公有制」を名目上保持したうえでのその使用権の売買や国有諸企業の株式制企業形態への改編などを要因として、これまで外資導入を出発点に形成されてきた商品=労働市場(資本市場をふくむ流通部面)にあらゆる生産部門のあらゆる生産過程があみこまれたことのゆえに、スターリン主義的官僚制計画経済の構成部分をなしていた諸企業、その生産過程の主客両契機は資本の定有という規定をうけとり、国有諸企業は国家資本となったのであり、経営官僚は生産諸手段の人格化たる資本家的経営者に転化するとともに、労働者はみずからの労働力を商品として売る賃労働者に転化したのである。中国国家の実体的基礎をなす中国共産党、この党の官僚がこの党のイデオロギーを「三つの代表」論にしめされるものへと変質させたこと、およびこの党の構成実体(党員)である企業経営官僚が資本家的経営者へとその社会的存在形態を変えたことに規定されて、この国家は資本家階級の利害を体するものへとその階級的性格を変えたのである。
 階級的性格を変えてきたこの国家は、みずからの暴力をもって資本の根源的蓄積をおしすすめた。スターリン主義党=国家官僚や地方の党=行政府官僚の農業政策の破綻と徴税というかたちでの収奪に苦しめられ生活できなくなった農民は、沿海部の都市に流入し、帝国主義諸国やアジアの資本主義諸国の諸企業から資本を導入して設立された合弁企業などに低賃金で雇われてタコ部屋におしこまれ過酷な労働を強いられた。「農民工」と呼ばれるこうした出稼ぎ農民は二億人にのぼった。また諸企業を誘致したり設立したりすることを目論んだ各級の行政府によって土地を暴力的に奪われたいわゆる「失地農民」は五〇〇〇万人におよぶ。農民から土地を収奪してその「使用権」を売るという〝事業〟をはじめとして経済的諸行動をおこなう地方の党=行政府官僚は、資本の人格化たるの意義をもつ。また彼らは自己の地位を活用して自分の息子や一族の誰彼を私営企業の経営者に育てあげた。
 いまやスターリン主義官僚とその一族が資本家階級に転化したのである。専制的支配体制をとる中国国家がそれの利害を体しているといえる資本家階級、その中核的部分を、党や国家や地方行政府や国有企業などの官僚という政治的獅子の皮をつけた汚らしい生身の人間どもとその一族郎党が占めているのである。党=国家官僚そのものは、この階級を統率し指導するものとして、国家意志を体現する政治エリートとして、「社会主義市場経済」とか「科学的発展観」とかという独自のイデオロギーを国家統合の手段たらしめ、この階級のうえに君臨しているわけなのである。
 ロシアにおいては、FSB(連邦保安局)=旧KGBを実体的基礎とした強権的=軍事的支配体制が確立されている。FSB型国家資本主義というべき政治経済構造を物質的基礎として、この国家はすでに資本家階級の利害を体現するものとなっているのである。一九九〇年のゴルバチョフソ連大統領就任は、このスターリン主義大統領制国家が「調整される市場経済への全面的で加速的な移行」という政策をうちだし実施したがゆえに、この国の政治経済構造が官僚制国家資本主義に変質した結節点をなす。このことはまた、一九九一年のソ連邦の自己解体の根源をなす。
 「生産諸手段の所有形態のプルラリズムとこれにもとづく経営形態の多元化は、――「個人的労働」のばあいをのぞいて――諸企業の管理部を資本家的経営者に転化させるとともに、労働集団の担い手たちを賃金労働者に転化させることになる。スターリニスト官僚制国家における管理部と労働集団との「労働契約」は雇用・被雇用の関係に転化する。これは、資本家的経営者または官僚資本家と彼らに雇用される労働者としての賃労働者たちとの関係であって、ここに企業内労働市場が成立している。」(黒田寛一『死滅するソ連邦』こぶし書房、一九九一年刊、三二八頁)
 「いまやスターリン主義国家の国家フォンドは解体されて、――リース制による私的=集団的占有という形態においてであれ、買収による私的または集団的所有という形態においてであれ、株式制という所有形態においてであれ、――資本という形態規定をうけとり、自己増殖する価値に転態したのである。私的小生産者・私的小経営者であれ、コーペラーツィア型労働集団であれ、また株式制企業であれ、軍産コンプレックスのような国営企業であれ、それらが所有する生産諸手段は、いまや資本の定有となる。そして、資本の定有としての生産諸手段は、この生産諸手段を使用する私的生産者ないし労働集団を前提し措定する。生産諸手段を賃借りないし買収した主体としての労働集団および小生産者をのぞいて、生産=企業の主体ではないところの労働集団の個々の担い手としての労働者は、自己の労働力を商品として販売する賃金労働者に転化する。
 他方、賃金労働者からなる労働集団に対立するところの、企業長(または支配人)を中心にした管理部は、生産諸手段の人格化としての資本家的経営者に、あるいは官僚資本家に転化する。」(同前、三三三~三四頁)
 ソ連邦を解体したうえで、ロシア大統領エリツィン帝国主義諸国の新自由主義的諸政策を模倣して「国有企業の民営化」を中軸とする資本主義化政策を実施したことは、官僚資本家やマフィアや外国資本と結託した新興ブルジョアどもの、国有財産の強奪にもとづく急成長とロシア経済の破綻をもたらした。この危機を突破するために、自分に対抗するオリガルヒ(新興財閥総帥)を弾圧し、自己の配下の旧KGBを担っていた者どもを、国有形態に再編した基幹的諸企業の経営にあたらせるとともに、国家諸機関をこれらの者どもでもってかためたのが、「国家に統制された市場経済」を標榜するプーチンなのである。
 これら中・露と対立する帝国主義諸国家、その政治経済構造もまた変貌をとげた。ソ連邦の自己解体とソ連圏諸国の政治経済構造の変質を外的条件とし、一九八〇年代初頭にネオ・ファシズム支配体制を確立した帝国主義諸国家の新自由主義的諸政策の貫徹および階級闘争の変質=消滅を内的要因として、現代帝国主義の政治経済構造をなす国家独占資本主義は形態変化した。アメリカン・スタンダードのグローバルな貫徹のもとでのマネー・ゲームの横行、「リストラ」という名の・不採算部門の切り捨ておよび直接的生産過程の合理化そして事務部門の人員の削減、雇用形態および勤務形態の改変、賃金の大幅な切り下げ、さらに「利益団体」と断罪しての労働組合の破壊、これらのゆえに、下へ下へと労働者階級の階層的な分化がおしすすめられ、膨大な極貧層がうみだされた。それ自体、スターリン主義者に、また社会民主主義者に、そして労働貴族どもに指導された労働組合は、あるいは破壊され、あるいは企業組織体にあみこまれ、労働者階級は総じて過酷な労働と貧困につきおとされたのである。諸製品の多様な性能や形状、生産する数量や時期などを市場の動向に適合したものとするためにコンピュータを駆使するという以外にはきわだった技術革新をおこないえていない諸独占体は、生産の拡大にともなって必要となる労働量を、労働者たちに超長時間・超強強度の労働を強いるというかたちで確保し、かつ徹底的に賃金を切り下げることをとおして、資本の過剰が露呈することを回避してきたのである。アメリカ型のカジノ資本主義は、こうした上から叩いただけの土手に咲いたあだ花にほかならない。
 これらのゆえに、帝国主義諸国家権力(帝国主義陣営に属していたすべての国の国家権力)を打倒するとともに中・露をはじめとしてソ連圏を形成していた諸国の国家権力を打倒することが、あるいは旧ソ連圏の諸国の国家権力を打倒するとともに帝国主義諸国家権力を打倒することが、全世界のプロレタリアートの普遍的課題をなすのであり、この普遍的課題を実現するためには、スターリン主義の破産の根拠を、したがってスターリン主義そのものの問題性をえぐりだし、スターリン主義をのりこえる内容をもって全世界のプロレタリアートイデオロギー的および組織的に武装することを基礎としなければならない。まさに、現段階における革命的プロレタリアートの世界革命戦略は〈反帝国主義・反スターリニズム〉なのである。この世界革命戦略、すなわちソ連邦の自己解体以降の現代世界を物質的基礎とする世界革命戦略は、帝国主義陣営とスターリン主義陣営との角逐を物質的基礎にして解明されたところの〈反帝国主義・反スターリニズム〉世界革命戦略を本質論とし、それの現実形態論として明らかにされなければならない。
 一九一七年のロシア革命によって世界革命への過渡期が切り拓かれた。けれども、革命ロシアの孤立・ロシアの経済的後進性・ヨーロッパ革命の挫折にもとづく世界革命の遅延などを物質的基礎としてうみだされたスターリン主義、「一国社会主義」のイデオロギーをその本質とするスターリン主義によって、樹立された労働者国家とその政治経済構造は変質させられた。革命ロシアのこのスターリン主義的変質を要因として、すなわち、ソ連「一国社会主義」の防衛と建設の自己目的化、これにもとづくソ連中心主義体制の確立(インターナショナリズムの破壊とコミンテルンスターリン主義的疎外)、ソ連「一国社会主義」の防衛への各国階級闘争の従属化、資本主義各国の革命戦略・戦術の誤謬とジグザグにもとづく革命闘争の裏切りと敗北、これらのゆえに世界革命の過渡期は固定化されたのであった。「一国社会主義」論をイデオロギー的支柱とする、ソ連およびソ連圏諸国の官僚主義的国家計画経済は、諸矛盾を蓄積させ、弥縫を重ねたすえに、ついに破綻したのであった。現代ソ連邦の自己解体とソ連圏の崩壊の根拠は、まさにここにある。このゆえに、一九一七年から一九九一年までの七十余年にわたるソ連における経済建設の総括を、すなわちスターリン主義的な官僚制計画経済の問題性と誤謬を徹底的にえぐりだす作業を、われわれはなしとげなければならない。これなしには、すなわちスターリン主義の破産の根拠をその根底からあばきだすことをぬきにしては、共産主義社会(その第一段階と第二段階の両者をふくむ)への過渡期にある社会の経済建設をどのようにおしすすめていくべきなのかを明らかにすることができないからであり、全世界のプロレタリアートを、とりわけ一九九一年を結節点として「二重の意味で自由な労働者」=プロレタリアにつきおとされた旧ソ連圏の民衆を、階級的に組織化していくことはできないからである。
 その内実が変質した党に君臨してみずからの支配を貫徹している今日の中国の党=国家官僚も、FSBを実体的基礎とする強権的=軍事的支配体制を敷いているロシアの国家権力者も、旧東欧諸国の転向スターリニストも、ソ連および自国の経済建設の破綻の根拠を、スターリン主義的な官僚制計画経済の誤謬にではなく、計画経済そのものにもとめ、「社会主義市場経済」だの「国家に統制された市場経済」だのという理由づけのもとに資本主義化政策を実施し、この政策の貫徹をつうじてその政治経済構造と国家そのものを独自的なものとしてつくりだしてきたのであった。旧ソ連圏諸国の今日の諸国家権力およびその物質的基礎をなす今日の政治経済構造が形成されたのは、じつに、スターリニストであった彼らが、官僚主義的国家計画経済の破綻の責任をマルクス共産主義社会論そのものにかぶせ、「市場経済」を経済再生の魔法の杖ででもあるかのように思い描いたがゆえである。帝国主義各国のスターリニストもまた同様に転向したのであり、彼らは修正資本主義をみずからの基本路線としているわけなのである。まさにこのゆえに、スターリン主義的な官僚制計画経済の誤謬をその根底からあばきだすと同時に、過渡期社会の経済建設をどのようにおしすすめていくのかを政治経済学的=実践論的に解明することが必要なのである。
 帝国主義陣営を形成していたところの帝国主義諸国およびその他の資本主義諸国においては、スターリニストは転向をとげ、転向スターリニストの党として存在し、階級闘争を修正資本主義の路線のもとによりいっそう歪曲している。それゆえに、各国の国家権力を打倒するためには、革命的プロレタリアートはこの歪曲をのりこえるかたちにおいて不断の階級闘争を展開し、かつ彼らの転向とその根拠をなすスターリン主義そのものの問題性をあばきだすイデオロギー的=組織的闘いをおしすすめることをつうじてこの党を革命的に解体し、反スターリン主義の前衛党を創造し確立することが必要なのである。この前衛党およびそれがリーダーシップをとってプロレタリアートヘゲモニーのもとに結成する革命的統一戦線を実体的基礎として、プロレタリア・インターナショナリズムにもとづいて、国家権力打倒の革命闘争は実現されなければならない。各国の国家権力の本質規定、それぞれの政治経済構造の特殊性の政治経済学的分析、階級関係および階級闘争の革命理論的分析などを基礎とし、これらと〈反帝・反スターリニズム〉戦略の適用との統一において、各国の革命戦略・組織戦術・戦術はうちだされなければならず、不断の階級闘争の具体的=個別的な闘争=組織戦術の解明に、そして革命闘争そのものの指針の解明に(革命闘争の主体的推進論は、革命闘争論的解明としてなされる)、〈反帝・反スターリニズム〉世界革命戦略を現実的に適用していくことが必要なのである。
 他方、ソ連圏を形成していた諸国の国家権力を打倒する革命の戦略・組織戦術・戦術の解明、および不断の階級闘争の指針の解明にも、〈反帝・反スターリニズム〉世界革命戦略は現実的に適用されなければならない。これらの国の革命戦略・組織戦術・戦術は、中国、ロシア、旧東欧諸国などの諸国家権力の具体的分析にもとづいて、それぞれ明らかにされなければならない。
 中国においては、スターリン主義官僚専制国家がその暴力をもっておしすすめてきた資本の根源的蓄積過程、これをつうじてうみだされ形成されてきたプロレタリアートは、変質した中国共産党を実体的基礎として成立している専制権力を打倒するために、党=国家官僚や地方の党=行政府官僚やまた国有企業の資本家的経営者、そして私営企業の資本家などの支配と抑圧と搾取にまっこうからたちむかう階級闘争を断固として推進すると同時に、この闘いのただなかにおいて、また独立に、こうした党と国家の変質の根拠をなすスターリン主義の破産を、スターリン主義そのものの問題性をあばきだしこの党を解体するイデオロギー的=組織的闘いをおしすすめ、これをとおして反スターリン主義の前衛党を創造し確立しなければならない。帝国主義諸国のプロレタリアートとのインターナショナルな連帯のもとに、世界党を構成するこの前衛党を実体的基礎としてプロレタリアートを階級的に組織化しかつ農民をも結集してソビエトを結成し、このソビエトを主体として国家権力打倒の革命闘争を実現するのでなければならない。
 ロシアのプロレタリアートは、FSBを実体的基礎とした強権的=軍事的支配体制という形態をとっている国家権力――スターリン主義官僚の転化した部分が中軸をなす資本家階級、その利害を体現している国家権力――を打倒するために、この国家による強権的支配と国家資本主義のもとでの搾取に抗する階級闘争を展開するとともに、その前提において、その過程において、そしてその結果において、革命ロシアを歪曲し変質させてきたところの、そしてアンチ革命に転じたところのスターリン主義を徹底的にあばきだし、かつスターリン主義をのりこえる内容を組織的に物質化し、これをつうじて反スターリン主義の前衛党を創出するのでなければならない。この前衛党のリーダーシップのもとに、スターリン主義官僚が形骸化させそして破壊したソビエトを真実のそれとして新たな地平において再組織化し、このソビエトを実体的基礎とするプロレタリアート独裁権力をうちたてなければならない。
 旧東欧諸国(そしてまたロシアとともに旧ソ連邦を構成していた諸国)においては、基本的には、一方では、支配階級をなす資本家階級のなかの・スターリン主義官僚が転化した部分、これの利害を体現する転向スターリニストの党が、他方では、資本家階級のなかの・帝国主義諸国の独占資本家どもと結びついた部分、これの利害を代弁する諸政党、およびその他の諸政党が形成され、いずれかの政党が中心となって権を掌握しているのであって、それぞれの国家権力の本質規定および実体的諸規定を基礎にして、これと〈反帝・反スターリニズム〉戦略の適用との統一において、各国の革命戦略・組織戦術・戦術が明らかにされなければならない。
 まさに、われわれの現段階における〈反帝国主義・反スターリニズム〉世界革命戦略は、帝国主義陣営を形成していた諸国の内部でも、また旧ソ連圏の内部でも、「プロレタリア・インターナショナリズムを主体的および組織的根拠として、永続的に完遂されなければならない。」(黒田寛一『日本の反スターリン主義運動 2 』こぶし書房、一九六八年刊、二六八頁。――本書の「〈反帝・反スターリニズム〉戦略の必然性とその構造」参照)
               二〇〇八年初頭