脱炭素産業革命に抗して、真の・気候危機=自然破壊に対する闘いを構築しよう!

 昨2020年9月21日、ポーランド最大の石炭企業PGFの炭鉱労働者が、業界再編に対する抗議のために、作業終了後、坑内に留まり地上に戻ることを拒否した。この闘いは瞬く間に10炭鉱に拡大した。坑内1000メートルの深度でのストライキは高温で通気が悪く極めて厳しい闘いである、と言われている。脱炭素産業革命による石炭産業の再編・合理化に対する労働者の闘いである。
 昨年ヨーロッパ諸国および中国は、脱炭素へと大きく舵を切った。その動きは無論昨年に始まったわけではない。2015年の国連総会において合意されたSDGsを一つの節目として、気候変動・気候危機に対する各国政府の取り組みの目標が設定されている。ハリケーン・台風の巨大化、水害、干ばつ、山火事、海面水位の上昇などによる自然災害とその甚大な被害に対して、金融資本=独占資本は、気候変動リスクなどという言葉を用いて危機意識を露わにしている。だが、急遽彼らが舵を切ったのは、その危機意識にもとづくだけではない。ましてや、エコロジストたちが求めるような、あるいは、国連SDGsが掲げるような、貧困や格差を失くし、「だれ一人取り残されない」「人間」「地球」「繁栄」「平和」「パートナーシップ」を理念・原則とする社会をつくろうというものではない。(このSDGsの「持続可能な繁栄・成長」という理念自身、国際的な金融資本=独占資本と各国の支配者たちが、自らの利害を各国の労働者・人民に貫徹するためのものに他ならない。)
 いま彼らは、コロナ危機への諸対処策の実施をとおして膨れあがった金融的資産、その投下先を「脱炭素」の諸分野に求めたのである。
 実際、昨年末の世界の株式の時価総額は100兆ドルを超え、その増加分は昨年だけでも15兆ドルを上回ると報じられている。「仮想空間への投資ではなく実質経済への投資」が必要だ、と叫ぶ独占ブルジョアどもが、なかんずくロスチャイルドを中核とする金融資本グループが、ポスト・コロナの彼らの利害を、脱炭素産業革命の名において貫徹するものに、上のことは他ならない。ドイツは2006年から水素・燃料電池技術革新プログラムを推進してきた。すでに再生可能エネルギー部門においては、技術的にもまた市場においても世界をリードしてきている。また2020年6月には「国家水素戦略」を発表している。それは「関連技術から生産、貯蔵、インフラ、物流や品質保証、消費者保護などを含む利用まで、全バリューチェーンをその戦略の対象とする」とされているものであって、ドイツの経済・社会の劇的な転換を実現することを狙うものである。それをEUに拡大して展開し、さらに北アフリカをも巻き込もうとしているのが、EU諸国の独占資本家どもなのである。すでに各国の年金財団などの機関投資家はESG(環境、社会、企業統治)投資にその力を傾注している。
 アメリカ大統領選挙におけるバイデンとトランプの対立は、この脱炭素エネルギー革命を物質的基礎としている。すなわち、サウジアラビアなどの産油国を最大の顧客とする軍需産業独占体・および・化石燃料を支配してきたエネルギー産業独占体と、脱炭素産業革命においてさらに伸長するであろうGAFAなどの諸独占体・および・これに資金を投下しつづけている金融資本との対立を、それは基底にしているのである。だが痛苦なことは、既存のエネルギー産業や、技術的に競争力のなくなりつつある製鉄・自動車などの諸産業に従事する労働者たちが、「強いアメリカの再現」を夢見てトランプにファシズム的にからめとられていることである。
 エネルギーの転換を中核とするこの産業革命は、その規模、影響力において巨大なものとならざるを得ない。トヨタの社長は「自動車産業はすそ野が広く、雇用を維持できない」と不満を表明している、また、ドイツ自動車産業では雇用が半減するという試算が出ている、と報じられている。それは単なる不満の表明ではない。労働者に対する恫喝なのである。それだけではない。冒頭に紹介した炭鉱労働者や石油関連施設で働くエネルギー産業の労働者、その多くは、外国人労働者であったり、貧困にあえぎ劣悪な条件で働かざるを得ない労働者であったりする。エネルギー革命は、こうした労働者たちの大量の首切りにならざるを得ない。そのことがまた新たなナショナリズムの台頭と相互の対立を呼び起こすことは必至である。トランプにファシズム的にからめとられた労働者たちの姿は、全世界的規模で再現されうる。それが脱炭素という美名のもとに行われようとしているのである。
 われわれは、帝国主義各国の権力者ならびに独占資本家、中・ロの国家資本主義国の権力者どもの階級的意図を見逃すわけにはいかない。
現代資本主義および国家資本主義の・悪無限的な化石エネルギーの浪費とそれにともなう大気中のCO₂の増加、原子力エネルギーの地球上への解き放ち、森林の伐採、これらにもとづく気候危機、自然の破壊に、われわれは断固として反対する。われわれは、化石エネルギーの浪費をも、クリーンなエネルギーと称しての原発の拡大をも、阻止することが必要なのである。と同時に、脱炭素産業革命の名のもとに全世界の労働者・人民を犠牲にすることを許してはならない。
労働者・人民を単に労働力商品としてのみ扱う帝国主義権力者・独占資本家、国家資本主義権力者・官僚資本家どもは、どのような美名を用いても、気候危機の原因であるCO₂の増加、自然破壊を根源的に止めることはできない。
 だが、今、脱炭素産業革命を眼前にして、それに抗する闘いは大きく分解しようとしている。エコロジーを語りつつ、グリーンニューディールなるものに幻想を持ち、労働者の闘いを脱炭素の動きに敵対するものと見なす者。あるいは、斎藤幸平のようにマルクスを持ち出し改竄し、労働者の闘いを歪める者。あるいはまたナショナリズムにからめとられファシズム的に組織される者。われわれはこの悲惨な現実と対決しのりこえ、全世界の労働者・人民の団結のもとにたたかいぬかなければならない。
       (二〇二一年一月一三日   西 知生)