「はじめに」『コロナ危機との闘い 黒田寛一の営為をうけつぎ反スターリン運動の再興を』

編著者からの挨拶です。 

 新型コロナウイルスへの感染が人びとを襲った。中国の権力者は、自国での感染の拡大を隠蔽した。アメリカの権力者は、自国での人びとへのこのウイルスの感染をインフルエンザの感染拡大と見せかけた。日本の権力者もまた、感染者の数値を少なくするために、PCR検査を徹底的に制限した。多くの国の権力者も同様であった。
 こうして、この新たな感染症は、全世界に一挙にひろまった。
 自己保身に駆られた各国の権力者たちは、排外主義をあおって、外国からの・また外国への・渡航を禁止し、そして都市封鎖や国内での移動禁止の措置をとり、労働者たち・勤労者たちに自宅待機を命じた。
 権力者たちがとった・新型感染症の拡大をくいとめるためのこのような諸措置によって、資本のもとでの生産・流通・消費は、すなわちブルジョア的経済は、一挙に収縮した。アメリカや日本などの国家権力者と彼らがその利害を体現する独占資本家たちは、そして中国の資本家的官僚と官僚資本家は、みずからがまねいた・人びとへのウイルス感染の蔓延、これを切断するために、資本の自己増殖のための生産を、あえてみずから縮小したのである。
 彼らは、悪辣にも、この犠牲の一切を労働者・勤労民衆に転嫁した。労働者たち、とりわけパート労働者などの非正規雇用の労働者たちは即刻解雇された。あるいは、出勤日・出勤時間を極端に減らされ、生活苦につき落とされた。個人事業者や中小企業者は、仕事そのものを奪われた。
 政府が支出する給付金は、これらの労働者・民衆の不満を抑えつけるためのものであるにすぎない。政府は、諸独占体と大企業の救済にこそ必死なのである。
 一方では、労働者たちに過酷な労働と低賃金を強いるとともに、他方では、金融的投機を拡大することによって、その危機をのりきってきた今日の帝国主義経済、すなわち国家独占資本主義は、現下の生産・流通・消費の収縮を要因としてその破産をあらわにした。アメリカの航空機製造巨大企業ボーイングや、ジャンク債の発行に頼ってきたシェールオイル生産企業に端的にしめされたように、諸独占体と諸企業は実質上の倒産の危機にあえいだ。
 アメリカや日本の政府は、赤字国債を膨大に発行し、それで得た国家資金をこれらの諸企業の救済につぎこんだ。アメリカ連邦準備理事会(FRB)や日本銀行といった中央銀行は、市場の国債を無制限に買い入れるという措置をとった。しかも、これらの中央銀行は、現存する金融構造の崩壊を阻止するために、だから諸企業や諸金融機関を破綻させないために、コマーシャルペーパー(CP)や社債を、したがって「フォーリンエンジェル」(堕ちた天使)という名の非投資適格債となった債券や、これらとレバレッジドローンなどを寄せ集めて組成された証券を、必死で買いこんでいるのである。
 もはや財務危機におちいり死に体と化した諸企業や諸金融機関は、政府と中央銀行によるこうした資金の注入にもとづいてその存立がゆるされているのである。
 いまや、現下の資本主義経済はゾンビ資本主義と呼ぶべきものになってきているのである。のりきりのこの形態は、世界のなかの財政基盤の弱い国が国家財政上の債務不履行(デフォルト)を起こしたことを引き金として一挙に崩壊する、という矛盾をはらんだものなのである。
 各国の独占資本家たちとその利害を体現する権力者たちは、そして中国やロシアの資本家的官僚と官僚資本家は、その危機をのりきるために、――アメリカと中国が新型コロナウイルスの起源について相互に責任をなすりつけあい、前者は後者に経済制裁の脅しをかけながら、――労働者・勤労民衆に犠牲を強いているのであり、総攻撃を仕掛けることを策しているのである。
 全世界の労働者階級・勤労民衆は、この攻撃をうちくだくために、みずからをプロレタリア階級として組織し、国際的に団結しなければならない。
 だが、反スターリン主義運動の前衛を自称する組織の現指導者たちは、日本の権力者・安倍晋三を「無能」と嘆いているのであり、安倍へのこの「無能」呼ばわりは権力者への尻押しになるということを自覚しえないほどまでに、彼らはプロレタリア的な階級意識を喪失しているのである。
 これは、彼らがスターリン主義をその根底からのりこえていくための実践的・理論的・組織的の営為を放棄し、労働運動への組織的とりくみにおける破産を自己保身的にのりきってきた帰結なのである。
 いまこそ、われわれは、一九五六年のハンガリー労働者たちの決起を革命として主体的にうけとめ、みずからがスターリン主義から決別することを決意し、反スターリン主義運動を創造してきたわが黒田寛一の苦闘をわがものとしうけつぎ、変質し腐敗した現組織指導部を打倒し、反スターリン主義運動を再興しなければならない。
 われわれはこの決意のもとに、新たな反スターリン主義組織の創造をめざして、二〇一九年初春に、日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派(探究派)を結成した。われわれは、みずからを変革し鍛えあげるための内部思想闘争をくりひろげつつ、これを主体的組織的拠点として、変質した現指導部のもとにある組織を革命的に解体し止揚するためのイデオロギー的=組織的闘いをおしすすめてきた。
 本書は、われわれのこの苦闘の結晶である。
 労働者階級の自己解放をめざし、スターリン主義をその根底からのりこえていくことを意志するすべての仲間たちは、そして、すべての労働者・勤労者・学生・知識人は、本書に主体的に対決されんことを望む。

                      (二〇二〇年六月五日   編著者)