ゾンビ資本主義 終わりの始まり――アメリカのシェールオイル大手・チェサピーク破綻の意味

 6月28日に、アメリカのシェールオイル大手のチェサピークエナジーが経営破綻した。3月末時点の負債総額は95憶ドル(1兆100億円)にのぼる。法的整理によって約70憶ドルの負債を削減する。つまり、現時点で破産手続きをしても、25億ドル(2,600憶円)の債務不履行となるわけである。アメリ連邦準備制度理事会FRB)が4月9日にジャンク債(投資不適格債 格付けBB以下の社債)の購入を開始した。このことによって、シェールオイル企業が破綻必至である、という情勢をあたかものりきることができるのではないか、という見通しが語られていた。がしかし、それは幻想である、と露わとなったのである。
 アメリカ政府・FRBの思惑は、直接にはシェールオイル企業の採算割れが40ドル/バレルであるから、一時WTI原油5月先物価格が-36ドル/バレルに史上初めて達したほどまでに原油価格が下落していることからして、シェールオイル企業が次々と経営破綻する可能性が高まったこと、これを何としても回避することにあった。こうして、アメリカ政府・FRBは、デフォルト(債務不履行)におちいっているにもかかわらず、ただ、財務上で資金を継ぎあて、経営破綻することを先のばしする、つまり死に体のままで存続させようとしてきたのである。ゾンビ企業と化したままだ。
 シェールオイル企業だけではない。ジャンク債を発行し、これを売却することによって資金調達をすることに依存しているあらゆる諸企業を、直接に資金繰り援助でもって支える、という驚くべき方策をFRBはとった、ということなのである。だから、これをわれわれは、アメリカ政府がみずからの主導のもとに、ゾンビ資本主義と化すというかたちで、米欧日の帝国主義経済を延命させることに踏み切った、と暴露した。だが、しかし、今回のチェサピークエナジーの経営破綻という事態は、彼らの延命策の破綻=終わりのはじまりである。
 そもそも、たとえ、FRBが、シェールオイルその他の財務が悪化した諸企業に社債(ジャンク債だ)を起債させ、これを買いとろうとしても、不良債権が優良債権になるわけではない。消失した商品需要、つまり原油需要を創出することは不可能なのである。債務は、膨れ上がる。チェサピークは現時点においてすべて債務を整理しても25億ドル(2,600憶円)の債券が紙切れと化すわけである。諸企業も膨大な負債を負い続け、さらに時間とともに膨れ上がり続けるのだから、とてもゾンビ企業として生き(?)続けられるわけがない。諸企業は多額の債務に圧倒されて支払い不能に陥り始めたのである。
 いや、いまや時限爆弾ともいうべきものがその規模を膨れ上がらせつつある。投資不適格級の諸企業は資金調達をローン(銀行からの融資)でおこなってきた。その場合に銀行は格付けでBB以下の企業にたいしてはレバレッジドローン(高金利)というかたちで貸し付けている。しかし、その際に銀行は、企業に資金を貸し付けると、ただちに、このレバレッジドローンを、これを担保として組成された金融商品に組み替え、売却してきたのである。これが、CLO=ローン担保証券というハイリスク・ハイリターンの――債権を証券化するという金融技術なるもので開発された――金融商品である。だから、銀行はもはや企業を破綻させるにもその企業の債務整理を簡単にはできない。ジャンク債(社債)も債券の上場投資信託ETF)に組み込まれていて、その整理などといっても複雑さを増している。
 3月末にアメリカ債券市場が暴落した。この事態に驚愕したFRBがジャンク債、CLOまでをも買い取ることにふみきった。これは全企業を国家=中央銀行が資金を注入して支えるという意味をもつ。がしかし、FRBがジャンク債やCLOを買いとり、こうすることによって、債券価格・株式価格の暴落という金融市場の崩落を阻止する、という思惑は、早晩破綻するだろう。膨大な数にのぼる投資不適格級の企業や、フォーリンエンジェルとよばれる、BBBから格付けを落とされ非投資適格級とされた企業を、すべてFRBが資金注入によって支える、などというのは、実質上、公的管理下におくに等しいのだからである。だが、彼らはそうせざるをえない。これは、政府・FRBアメリカ経済の国家的な統制にふみきることを決断したものである、といわなければならない。そのようにはあらわとならないように、である。「自由な資本主義市場経済」が続いている、と見せかけるために。なによりも、金融市場での投機的な資金運用によって金融活況を意図的にうみだし、金融収益を金融資本が獲得する、そのような国家独占資本主義の生き残り策を続けていくために。
 コロナ危機の直撃を受けて解雇され、絶望し自死さえする労働者・勤労者がいる。この状況においてもFRBに資金を融通されながら、ヘッジファンドは、やれ「ビッグ・ショート(空売り)」だの「プットオプションリスクヘッジのために、「ある日時に売る権利」を購入すること)」だのという投機手法によって、このコロナ危機の3月以来の、株や債券の暴落を利用して数千億円の利益を手にしているのだ。こうしたヘッジファンドを、アメリカ帝国主義権力者は、国際金融市場で自国の金融支配構造をつくり維持する先兵として活用し続けている。東アジア通貨危機を仕組んだアメリカ政府とヘッジファンドのJ・ソロスとの関係に端的なように、である。だが、こうしたアメリカ政府・FRBが人民にその危機のりきりの犠牲を転嫁することを労働者人民は団結して打ち砕こう。ゾンビ企業として巨額の負債を負わされ続けることに耐えられず、諸企業は安楽死を選択しはじめた。ゾンビ資本主義化というかたちでアメリカ帝国主義が金融支配をしつづけようとしても、そのあがきは幻想なのである。

                       (二〇二〇年七月五日 丹波 広)